アルツハイマー(Alzheimer)型痴呆について

2002.02.17 放送より

 今日は、痴呆と言えばまず皆様が思い浮かぶほど有名なアルツハイマー病についてお話しいたします.そもそもアルツハイマーというのは、アロイス・アルツハイマーという名前のドイツの神経病理学者の名前に由来しております.すなわちこのアルツハイマー博士が1906年に精神病院に入院していて亡くなったアウグステという55歳の患者さんの報告をしたことがこの病気の発端です.そこで当初は初老期痴呆(65歳未満で発症)として少ないものとして考えられておりました.

 しかし65歳以上の人に発症する老年期痴呆の中にも実質的に同じものがあり(=アルツハイマー型老年痴呆)、しかも寿命の延びとともにこちらの方が圧倒的に多いことが分かり、両者を併せてアルツハイマー型痴呆と呼ぶようになっております.ちなみに痴呆の有病率は65~70歳では1.2%ですが、加齢と共に上昇し、80~84歳では10%を越え、85歳以上では約20%にもなります.そして全痴呆の約30%がアルツハイマー型痴呆といわれております.これは非常に多い数字であり、世界中には1200万人以上の患者さんが存在することになり、これからの高齢化社会に向けて大きな社会問題であります.そこで現在、世界中の非常に多くの研究者が原因の究明と治療法の開発を行っております.

 それではまず、症状からご説明いたします.まず病初期には抑うつや自発性の低下などもみられますが、やはり一番目立つのは、記銘力(新しくものを覚えること)や記憶力(いったん覚えたことを思い出すこと)の低下であり、特に新しい記憶が障害されます.

この結果、昨日や今朝のことをまったく忘れてしまったり、同じことを何度も聞いたり、今日の日付が分からなかったり、計算が出来なくなったりします.次ぎにもう少し進んでくると、昔のことも忘れ出したり、見慣れたものの名前も言えなくなったり、時間が分からなくなったり、自分がどこにいるのか分からなくなり、外出先から戻れなくなります.

 さらに少し人格の障害や性格の変化もみられだし、ものをとられたあるいは亡くなった人が生きているなどの妄想や幻覚が出てきたり、徘徊したりするようになります(中期).さらに進行しますと、自分の名前を忘れたり、意味不明の単語を話したり、鏡徴候といって鏡に映った自分の姿を自分と認識できずに鏡に向かって話しかけたりします.また食事、着脱衣、排泄など日常生活全般に介助が必要となり、寝たきりとなって大体8~10年で死に至る経過となります(末期).診断は、各種の知能検査で痴呆があることを判定し、神経学的診察に加えて、頭部のCTやMRIなどの画像検査や各種血液検査などで他の痴呆をきたす疾患を除外いたします.

 次ぎに、病因についてご説明いたします.そもそもアルツハイマーが報告した病理所見には、大脳に神経細胞の脱落とともに神経原性変化と老人斑の出現という特殊な変化が認められました.そして最近の研究で神経原性変化には、微小結合蛋白の1つでシナプス結合や軸索輸送などに関係するタウ蛋白に異常なリン酸化が起こっていることが明らかになりました.このため神経突起が変性し、シナプス結合の消失や軸策輸送の障害などをきたして神経細胞が脱落している可能性が示唆されております.

 また老人斑には細胞接着や細胞増殖を促進させるといわれているアミロイド前駆蛋白(APP)の断片であるβアミロイドの凝集が認められ、βアミロイド沈着による神経毒性やアミロイド前駆蛋白の減少による神経保護作用の低下などが病因である可能性が考えられております.これら2つの異常のうちどちらがより重要なのかはまだ決着がついておりません.第17番染色体上のタウ遺伝子の異常でも、そして第21番染色体にあるAPP遺伝子やAPPを分解する酵素と考えられているプレセニリンⅠ、Ⅱという蛋白の遺伝子(第1、14遺伝子)の異常でも若年発症することが分かっておりますので、恐らくどちらも関与しているものと思われます.また現在、アルツハイマー型痴呆を引き起こす危険因子として知られているものには、頭部外傷、性格(感情的で短気)、高齢な母親から生まれた人、アポリポ蛋白E4、前述した幾つかの遺伝子などがあります.

 最後に治療ですが、現時点では薬物療法としては、脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンの分解を抑える塩酸ドネペジルという薬剤が唯一保険適応となっており、痴呆の進行をある程度くい止められるようです.しかしこれだけでは勿論不充分ですので、アセチルコリン受容体を刺激する薬剤、各種神経栄養因子、神経内の炎症を抑える薬剤などに加えて、病因に関連したものとしてβアミロイドを作らせないようにするワクチンや薬剤などが現在開発治研中であります.全世界の数多くの研究者が、日夜競争しておりますので、そう遠くない将来にアルツハイマー型痴呆が不治の病でなくなる日が来るように思われます.

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