冷え性と低体温症について

2004.11.11 放送より

 25歳のOLをしているお嬢さんのお母様からの質問です.この方のお嬢様がクーラーの効いた職場で1日中仕事をし,手足の冷えとともに肩こりや腰痛に悩まされているそうですが,それが冬場になるともっとひどくなるのか心配されているということと冷え性と低体温症の間に関係があるかというご質問です.

 それではまず冷え性についてお話しいたします.冷え性とは手や足など身体の末梢への血液の流れが悪くなり,その結果,身体の深部体温は下がっていなくとも手や足先などを中心に身体が冷えた状態になることをいいます.必ずしも病気というわけではなく体質といったものなのですが,これから冬場になって寒くなって行くにつれ,あるいは夏場でもエアコンなどにより寒暖の差が激しい環境ではこれでお悩みの方も多いと思います.さてそもそも人間は恒温動物ですから体温を一定に保とうと自律神経が働いております.

 自律神経にはご存じのように交感神経と副交感神経があり,寒くなるとこのうちの交感神経が興奮し,体温を上昇させるべく体内に蓄積された脂肪などを燃やして肝臓や筋肉などで熱を産生させ,この熱を動脈により全身に循環させるとともに皮膚の毛細血管を収縮させ皮膚からの体温の放散を防ぎます.冷え性の原因としてまず1番多いと考えられるのがこの自律神経失調で,冷暖房などの普及の影響や強いストレスなどで気温の変化を感じる神経が鈍くなったりして交感神経と副交感神経のバランスが崩れ,手足の先などへの血流が悪くなります.

 この異常のある方では,寝付きが悪い,汗をかきにくい,トイレの回数が多いとか激しい動悸がするなどの症状を伴いやすいと思います.また自律神経は女性ホルモンの分泌とも関係が深く,このホルモンのアンバランスをきたしていることもあります.これにより手足や腰は冷えているのに顔がほてったり,生理が不順で生理痛が強くなったりなどします.それから血液の循環が悪くなり手足が冷える原因としては,低血圧があります.この場合,朝が起きづらいとか長く立っていると立ちくらみを起こすなどの症状を伴うことがあります.また手足の循環を妨げる外部の原因としてきつい洋服(下着や靴下も含めて)などの影響も考えられます.さらに血管よりも中を流れている血液そのものに問題があっても冷え性になります.貧血の中でも特に鉄欠乏性貧血が関係があり,無理なダイエットや偏食気味の人は要注意です.

 それでは次に冷え性に対する対策としては,貧血や低血圧がある人はそちらの治療も必要ですが,一般には血行を良くし身体を温めることと自律神経の乱れを起こさないようにすることが大切です.まず血行を良くするためには適度な運動をして心臓や筋肉を鍛えます.特に足には身体の約70%の筋肉が存在していると言われます.足の筋肉を動かすことにより熱の産生を増やすだけでなく,筋肉には足の静脈から心臓へ向かって血液が帰って行く際の補助ポンプとしての作用があります.座って踵を地面につけたり浮かせたりする運動だけでも効果があります.

 また肩や首などもじっと固定したままでは血行が悪くなり老廃物もたまって凝りや張りの原因となりますので,気分のリフレッシュやリラックスを兼ねてストレッチなどの体操をするのも効果的です.それから勿論,急激な温度差は良くないので重ね着などで細かく温度を調節し,冷え過ぎや温めすぎを避けること,入浴の際には足湯や半身浴なども利用してただ暖まるだけではなく発汗を促し新陳代謝を高めることも有効です.さらに自律神経が乱れないよう食事や睡眠も規則正しくすることが大切です.偏食やお腹を冷やす冷たい物はなるべく避け,身体の冷えやすい深夜までの夜更かしも止めるようにしたいものです.

 一方,低体温症というのは,医学的には直腸温などの中心体温が35℃以下になった状態をいい,死亡率は20~90%に及ぶ大変重篤な状態です.海や冬山などでの遭難など偶発的に起こるものもあれば,アルコールなどの薬物中毒や糖尿病性昏睡などの意識障害あるいは低栄養や下垂体や甲状腺などの機能低下,あるいは重症感染症など全身の衰弱した状態など内科的疾患が背景にあって起こることもあります.症状ですが,体温の低下とともに体温を維持しようと反応して全身の皮膚の血管の収縮と震えが出現し,さらに体温が32℃位になると震えがなくなり替わりに筋肉は硬直し,脳の活動も低下し始めます.

 さらに30℃以下になると呼吸,脈拍,血圧などが徐々に下がり,28℃以下で昏睡状態となり25℃で仮死状態,さらに20℃で死亡となります.質問に対する答えですが,要するに冷え性と低体温症は別物であります.しかしここ10年位のうちに若い人の中には食生活の偏りや極端なダイエット,運動不足,シャワーだけの入浴,エアコンの使いすぎ,過度のストレスなど自律神経やホルモンのバランスを乱しやすい生活のため腋窩温で測る平熱が35℃台と低体温となっている人が多くなっており,これらの人たちは冷え性になりやすいので注意が必要です.

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