味覚について

2002.10.29 放送より

 ”秋の味覚も充分堪能しましたが、これからはお鍋もおいしくなってきますね.今日はそんないろいろな味を楽しむために必要な味覚についてお話しいたします.

 そもそも“味”には「甘味」、「酸味」、「塩味」、「苦味」の4つがあるといわれてきましたが、最近これに「旨味」も加わり、味の基本が5つになったそうです.これらの味は、まず舌にあります「味蕾」という味覚の受容器でキャッチされます.この「味蕾」は舌の上に約5000個、顎の奥や喉にも約2500個存在しているといわれていますが、それぞれの味を感ずる「味蕾」には局在があり、甘味は舌の先、苦味は舌の奥、酸味は舌の横というふうに感じやすい場所が決まっているようです.そしてこの「味蕾」でキャッチされた味の刺激は、味覚を伝える感覚神経を伝わって脳の中へ入ってゆくのですが、舌の前2/3はである鼓索神経を、舌の後ろ1/3は舌咽神経を介します.

 このうちの鼓索神経は顔面神経と合流するので、原因不明で末梢性の顔面神経麻痺をきたすベル麻痺ではしばしば味覚障害を起こすことがあります.そしてまたこの鼓索神経には同時に涙腺や唾液腺に分布している線維も含まれており、涙や唾の分泌にも関係があります.これらの味覚を伝える神経は、脳幹、間脳という脳の奥深い所を通って上行し、大脳の側頭葉にある味覚中枢まで刺激を伝えます.従いまして味の刺激は、そこまで伝わって初めて感ずることができるわけです.

 さてそれでは次に味覚障害についてご説明いたします.味覚障害には、大きく分けて味覚受容器の障害、神経伝導路の障害、その他の疾患に合併するものなどがあります.まず味覚受容器の障害ですが、亜鉛欠乏症があります.亜鉛は必須微量元素の1つですが、これが欠乏すると味覚が障害されます.この亜鉛欠乏による味覚障害は味覚障害全体の約15%を占めており、単独の原因では1番多いものです.亜鉛の1日に必要な摂取量は成人で15mgといわれています.

 普通に食事をしていると亜鉛が体内で欠乏することは殆どないといわれていますが、ダイエットなどによる極端な偏食、加工食品に含まれている食品添加物(ソーセージやかまぼこなどのつなぎとなっているポリリン酸Na、変色防止剤として漬け物や清酒に使われるフィチン酸など)や薬剤(後で述べます)などにより亜鉛が細胞内に取り込まれにくくなったりして起こります.治療には亜鉛を含む薬剤を内服しますが、食べ物としては、牡蠣(5個で約15mg)を筆頭にカニなどの魚介類、肉類、乳製品、豆類、それに胡麻などに多く含まれていますので、ダイエットの際にはこれらも少しは食べるようにしてください.

 それから味覚受容器を障害する薬剤としては、通風治療剤であるコルヒチンやアロプリノール、抗リウマチ剤であるD-ペニシラミン、解熱鎮痛剤であるアセチルサリチル酸、抗パーキンソン剤であるL-ドーパ、降圧利尿剤であるサイアザイドやフロセミド、抗ヒスタミン剤、抗潰瘍剤、去痰剤、抗てんかん剤、催眠薬などがあります.これらの薬剤による味覚障害の機序は、先ほどの亜鉛をキレート(細胞内に取り込ませにくくする)作用によるものや口の中を乾燥させたり苦くさせたりするものなどさまざまです.それから抗生物質やガンの化学療法などで引き起こされる高度の舌炎や頭頚部腫瘍に伴う放射線治療などによっても味覚受容器の障害が起こります.

 次に味覚の神経の伝導障害ですが、これには鼓索神経の部分での障害としては顔面神経麻痺をきたす疾患として先ほども名前が挙がりましたベル麻痺を始め、ヘルペスウイルスが原因のハント症候群、口蓋扁桃摘出術や喉頭ポリープ摘出術などの術後、中耳炎や聴神経腫瘍などがあります.また脳幹以降の味覚神経伝導路付近に起こった脳血管障害、外傷、脳腫瘍、脳炎などでも障害はみられます.

 それからその他の疾患に合併する場合ですが、これには口腔内の乾燥を引き起こす疾患や舌炎をきたす疾患があります.口腔が乾燥する疾患としては、関節リウマチによく合併して唾液や涙の分泌が低下するシェーグレン症候群を始め、糖尿病、腎不全、肝不全、バセドウ病などがあります.これに対して舌炎をきたす疾患としては、先ほどの各種薬剤による副作用以外ではビタミン欠乏で起こる悪性貧血があります.また妊娠中や更年期障害でもみられるといわれておりますが、さらに忘れてならないのは、抑鬱や神経症など精神的な原因すなわち心因性のものも約10%にみられるということです.

 皆様、これからの寒い時期、おいしい牡蠣やカニなどを食べて味覚を養ってください.但し余りにおいしいからといってわれ先に鍋をつついて舌を火傷したら元も子もありませんので、くれぐれもご注意くださいますようよろしくお願いいたします.

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