神経因性膀胱について

2001.01.10 放送より

 排尿障害は、嚥下性肺炎と褥創とともに神経疾患の3大合併症と言われており、放置すると尿路感染や腎機能障害などを引き起こすことも多く、重大な症状の1つです.神経疾患に合併してみられる排尿障害のことを神経因性膀胱といい、これは自律神経の障害の1つです.今日はこの神経障害に基づく排尿障害についてご説明いたします.

  まず始めに基本的なこととして排尿という現象についてご説明いたします.排尿で最も大きな役割を担っているのは膀胱であります.膀胱には、尿を蓄える蓄尿機能と蓄えた尿を体の外へ排泄する排出機能があります.蓄尿は時間をかけて無意識のうちに行われ、この間は胸髄下部と腰髄上部よりでる交感神経(下腹神経)の働きによって膀胱が自律的に拡大いたします.そしてある程度尿が溜まってきますと尿意を感じます.
これは初発尿意といい、個人差がありますが、大体200ml前後です.これは、脊髄の仙髄という部分にある膀胱脊髄排尿反射中枢という部分の刺激によるものですが、この時点では大脳の前頭葉にある排尿中枢からの抑制刺激によって自律神経の高位中枢である脳幹部の排尿中枢が抑制されることにより我慢することが出来ます.正常成人の膀胱容量は300~400mlでこれが最大尿意であり、これ以上溜まって参りますと、大脳の抑制刺激に打ち勝って仙髄の排尿反射中枢(下位排尿中枢)から出る副交感神経(骨盤神経)が興奮し、排尿筋が収縮し、排尿が始まります.この時、尿道括約筋という膀胱の出口を引き締める筋肉(交感神経によって支配されている内尿道括約筋と体性神経である陰部神経によって支配されている外尿道括約筋があります)は、興奮がとれて弛緩いたします.

 また外尿道括約筋は随意的に収縮させることができ、排尿途中で中断させることが出来ます.これが正常な状態であり、排尿障害は仙髄の下位排尿中枢より上の部分が障害されると痙性神経因性膀胱、下の部分が障害されると弛緩性神経因性膀胱というように大きく2つに分けられます.痙性神経因性膀胱は、蓄尿機能の障害が障害され膀胱の容量は減少し、1回尿量も減少いたします.すなわち膀胱は刺激され過敏な状態となり1日の排尿回数は10回以上と頻尿になり、尿意は切迫し辛抱できなくなって失禁もみられます.
さらに尿道括約筋も収縮し、出口が閉まることにより排出機能も障害されますと排尿に時間がかかり残尿もみられるようになります.膀胱の内圧が上がるため、膀胱から尿管へと尿が逆流しやすく腎盂炎を繰り返したり水腎症を起こしたりと腎機能障害もきたしやすくなります.このような状態は、脳血管障害、パーキンソン病、多発性硬化症、脊髄損傷などでみられます.一方、弛緩性神経因性膀胱では、主に排尿機能が障害され、膀胱は緩んだまま、ただの袋のような状態となります.排尿困難があり、その容量も600ml以上に増え、尿意も感じられなくなってしまいます.

 膀胱からあふれ出るようになると失禁してしまいますが、排尿しても膀胱内には多量の残尿がみられ膀胱炎を起こしやすくなります.このような状態は糖尿病、骨盤外傷などに伴う脊髄損傷などでみられます.なおこの2つを比較した場合、一般には痙性よりも弛緩性の方が合併症も少なく管理がしやすいといわれております.

 次に治療に関しては、膀胱が痙性あるいは弛緩性になっていても、ともに排尿困難、残尿、失禁などが認められるため患者さんの訴えだけでは一見どちらのタイプか区別が出来ないことがあります.治療の方法は、痙性と弛緩性では大きく異なりますので、この両者を区別することが大切です.区別にはまず問診が重要で、特に尿意の有無や夜間の尿の回数が問題となります.問診だけで鑑別できない場合の検査としましては、泌尿器科で膀胱内圧や膀胱容量の測定などが行われております.すなわち内圧が低く、容量が増え残尿が多いと弛緩性ということになります.

 治療はどちらのタイプでも出来るだけ正常な状態に近づけることであり、すなわち具体的には排尿間隔は2時間以上、尿失禁がなく、残尿も100ml以下を目標とします.薬物療法としては痙性の場合の特徴である蓄尿機能の障害には、排尿筋の異常収縮を抑える薬として抗コリン剤などが、尿道の抵抗を高める薬として交感神経を刺激する薬や抗うつ剤の一種が使用されます.排出障害(これは弛緩性のみならず痙性の場合でもみられます)には排尿筋の収縮力を高める薬としてコリン作動薬や抗コリンエステラーゼ剤などが、尿道の抵抗を弱める薬として交感神経遮断薬の一種や筋弛緩剤などが用いられます.このような薬物による治療だけでは不充分な場合、手や腹圧による膀胱訓練、カテーテルによる導尿、さらに神経ブロックや手術などの方法もあります.

 日常の診療で排尿障害を実際に訴えられる患者さんは、実際の数よりも少ないように思われます.これは、恥ずかしいという気持ちや年齢のためで治らないと思っていたりするためと思われます.排尿障害の多くは、治療可能なものですからぜひ積極的に専門医に受診されるようにして下さい.

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