重症急性呼吸器症候群(SARS)について

2003.05.27 放送より

 今日は今年の医学界でもっとも大きな話題となっております重症急性呼吸器症候群、略してSARSについてお話しします.

 SARSはここのところ新聞やテレビで連日のように報道されていますので、皆様ある程度ご存じのことと思います.この病気の発端は、そもそも2002年の11月に中国南部の広東省で肺炎が多発したことに始まります.この時はまさかこのような新しいウイルスによる流行性の重篤な肺炎とは分からず、マイコプラスマなどによる異型性肺炎と考えられていました.ところが2003年に入り、香港に飛び火したのを皮切りに、ベトナム、シンガポールなどの東南アジアだけでなく飛行機による移動を介してカナダやドイツまで類似患者の発生が報告され、全世界に感染の拡大の危険性があるとして、世界保健機構(WHO)が、3月12日にこの病気を重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome、 SARS)と命名して発表したのです.以来、患者数は世界で8000人を超え、感染の拡がりやスピードはインフルエンザほどではないようですが、死亡率が1割弱と高いため飛行機移動が当たり前となった現代の目に見えない新しい病気として社会問題になっております.

 この病気の定義はWHOによれば、2002年11月1日以降に38℃以上の急な発熱と咳や呼吸困難など呼吸器症状を示した患者で、かつ発症前の10日以内にこの病気が流行していた地域にいたか、又はこの病気の人の痰や唾液などに触れたことのある者がこの病気の疑い例とされ、さらに検査を行って胸部X線写真で肺炎像が認められたり、SARSウイルスの検査で陽性になった者が可能性例とされます.


 すなわちこの病気はSARSウイルスという新しいウイルスの飛沫あるいは接触感染によって引き起こされ、その潜伏期は一般には2日ないし7日と考えられております.そして発症時には急に38℃を超える発熱が1日以上を続き、頭痛、悪寒、倦怠感、筋肉痛などを伴います.その後、3日以上してから痰の出にくい咳や呼吸困難(約80%)が出現します.検査所見では、胸部X線写真で肺に炎症像(特に間質性の病変)がみられます.このほか血液の炎症に加えて、白血球特にリンパ球の減少(約90%)や血小板の減少がみられるほか、肝臓由来のGOTやGPTも2~6倍と軽度上昇(約80%)がみられるほか、筋肉由来の血清CK活性値も上昇することがあるようです.

 鑑別すべき肺炎にはマイコプラスマ、クラミジア、レジオネラなどによるものがあげられます.治療といたしましては、各種の抗生剤やリバビリンというウイルス肝炎の時に使われる抗ウイルス剤、それに副腎皮質ステロイドホルモンなどが用いられておりますが、いずれも有効といわれてないようです.大体80~90%の人は発症後6~7日で軽快してゆくようですが、10~20%の人が重症化してゆき、低酸素血症をきたして酸素吸入や人工呼吸器による呼吸管理まで必要になるようです.

 またこのような人は糖尿病などの基礎疾患を持っている人や高齢者などに多いようです.このように現在のところこの病気に対する治療法に特異的なものはなく、対症療法だけのようです.そこで最も大切なことは予防ということになりますが、新しいウイルスということもあり、ワクチンの開発にはもう少し時間がかかりそうであり、このウイルスに接触しないようにすることと、もし接触した恐れのある場合には消毒などが重要になります.まず接触しないようにするための有効な予防手段としては、皆様ご存じのように流行地などではN95という空気感染をも防ぎうる特殊なマスクもしくは外科用マスクの着用が推奨されています.但し、正しくマスクを装着しているはずの医療従事者に結構多くの病院内での2次感染が発生しているようですから、状況に応じて頻回に換えたり、いったん装着したマスクの外側はウイルスに犯された不潔なものとして触らないようにするなどの配慮が必要です.

 次に接触した恐れのある場合ですが、手洗いが感染予防のための基本です.病院では、一般に感染の危険性のある際に手袋を着用して診察に当たりますが、その場合手袋のおかげで直接触らなくて済んだとしても手袋をはずした後に必ず手洗いを行っております.手洗いは流水だけでも丁寧にやれば充分で、石けんなどを使用して不十分な場合より良いといわれております.また簡便なためアルコールを含む手指消毒剤を用いることもありますが、消毒作用を過信せずこれも丁寧にくまなく擦り込むことが必要です.

 発症前の潜伏期間のうちに感染源になったという報告も出てきております.とにかくこの病気に限らず、細菌やウイルスは目に見えない病原体ですからどこに何が潜んでいるか分かりません.決して対岸の火事とは考えないでインフルエンザの時のように普段から用心して手洗いやうがいを励行するように心がけてください.

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