食中毒について

2005.10.26 放送より

 食欲の秋で何を食べてもおいしくて困るのですが、最近はグルメブームでいろいろなものが食べられるようになりました。しかし自然界の中には気をつけないと毒を含んだ食物があります。今日は、食物に含まれる毒物についてお話ししたいと思います。

 まずはこれからの季節で有名なのはフグ中毒です。ふぐの毒はテトロドトキシンといって1902年に田原により発見されました。この物質は熱には大変強く、中性および有機酸による酸性でも安定で、アルカリ性では速やかに分解されるそうです。その毒性は細胞膜の小さな孔の1つであるNaイオンチャンネルを防ぐことにより発揮されます。すなわちNaイオンチャンネルは神経や筋肉の細胞膜に存在しており、この孔を通じてNaイオンを細胞膜の外から内に通過させることにより神経や筋肉に興奮性の刺激を伝えます。テトロドトキシンは、神経細胞の膜にあるこのチャンネルの蛋白に結合し、これをブロックすることで神経の麻痺を引き起こします。毒性の強さは、かなりのもので青酸カリの1000倍以上で、致死量は0。5~2mgといわれています。代表的なトラフグに含まれているこの毒素の量は1匹分で約10人の致死量に相当するといわれています。

 この毒素は、肝臓や卵巣に多く含まれていますが、種類によっては皮、精巣、筋肉にも毒があるものがあるそうです。中毒による症状は食後20分から数時間して口や指先のしびれで始まり、神経の麻痺が全身に及んでゆきます。致死量の毒を摂取していれば早い人で1時間半、遅いと8、9時間後に呼吸筋麻痺で死亡します。フグ毒の作用を抑えるようなワクチンや解毒剤などはありませんが、可逆性の毒であり、1ないし2日のうちに自然に回復しますので、呼吸筋麻痺が起こりだしたら、その間人工呼吸器などを使用して呼吸を管理しておけば救命することが出来ます。最後にふぐ自身は何故自分の毒で死なないかという理由は、ふぐはシステインというアミノ酸の1種を大量に持っていてそれがテトロドトキシンを解毒しているとかふぐのNaイオンチャンネルはテトロドトキシンに結合しにくいタイプではないかなどといわれています。

 次に同じく神経毒であり、しかも世界最強といわれるボツリヌス毒素についてお話しします。ボツリヌス毒素は嫌気性菌であるボツリヌス菌によって産生されます。毒素の種類にはAからGまでの7つの型があり、人の中毒ではA、B、E型によるものが多いといわれています。この毒素自体は80℃30分あるいは100℃数分で不活化されますが、菌の特殊な形である芽胞の中に含まれている時には120℃4分の加熱でも壊れないことがあるそうです。

この毒素の作用は、神経筋接合部で神経の興奮を筋肉へと伝えているアセチルコリンの遊離を阻害することといわれています。その毒性の強さは、驚異的であり、致死量は0。1~5μg/kgといいますからわずか1gの毒素で数万人の人が亡くなるという計算になります。ボツリヌス菌は通常は世界各地の土壌中に存在しており、この菌による食中毒は、この菌によって汚染された食物が瓶詰めなどに加工されて嫌気的な状態となりその中で菌が毒素を産生し続けるという条件下で発生します。

 日本では過去にカラシレンコンで36人が発症しうち11人が亡くなりました。欧米ではオリーブやマッシュルームの缶詰、ソーセージや魚の薫製などによって起こった報告があります。症状は摂取した毒素の量にもよりますが、通常、数時間~48時間の潜伏期を経て下痢などの軽い消化器症状から始まります。その後、眼筋麻痺による視力障害(=眼症状)、構音障害、嚥下障害、四肢麻痺、呼吸筋麻痺などの麻痺症状、唾液や涙などの分泌障害などが出現いたします。発症者の約20%の人は3~7日以内に心臓または呼吸麻痺により死亡するといわれています。治療としては、呼吸器の使用に加えて毒素を中和して5~7日で半減させるといわれている抗毒素血清を出来るだけ早期に投与する必要があります。

 それからこれから冬にかけて食べる機会の多いものとして牡蠣があります。牡蠣の食中毒の原因はいろいろあり、貝毒すなわち牡蠣が食べたプランクトンの毒を蓄積している場合、病原性大腸菌や腸炎ビブリオなどに牡蠣が汚染された場合、そして最近話題のノロウイルスによるものなどがあります。

これは従来小型球形ウイルスと言われていたものですが、牡蠣がプランクトンと一緒に吸い込んで中腸腺という部分に濃縮されて存在します。ヒトがこれを食べても必ずしも発症するわけではありませんが、体力の落ちたヒトなどの場合、小腸で増殖して潜伏期間1~2日で、腹痛、吐き気、嘔吐、下痢、発熱をきたします。このウイルスは酸、アルコール、塩素に抵抗性で、60℃の加熱では30分でも不十分といわれています。体調の悪い時や過労時には牡蠣の生食や過食は慎む方が良いと思います。

 今日お話してきた中で、ふぐやボツリヌスは怖いけれどもあまり身近でないようですが、牡蠣については実は私は2回ほど当たった事があります。それでも止められなくて懲りずに毎年食べておりますが、当たると相当苦しみますので皆様も充分気をつけて食べていただきますよう宜しくお願いいたします

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