片頭痛の方からの質問にお答えして

2004.07.18 放送より

 今日は伊月病院のインターネットのHPや私の外来診療で片頭痛に関する質問を取り上げてお話しいたします.まずインターネットの方ですが,6月下旬に30歳代の主婦の方からエアロビをしていて1時間後くらいから頭痛がして徐々に脈打つ激しい痛みとなり,微熱や吐き気も伴うとのことで,どういうことかというご質問でした.また私の外来で聞かれた質問は,同じく30歳代の女性で,パンやケーキ作りの教室に通う度に頭が割れるような激しい頭痛に襲われるのはどうしてか?というものです.

 それではまず片頭痛について説明いたします.片頭痛は,思春期から60歳くらいまでの女性に多く,通常は片側性で目の奥や前頭部ないし側頭部がまるで血管の拍動に合わせてズキンズキンと痛みます.しかし発作の際に部位が左右に移動したり,あるいは両側性に起こることもあります.発作の初期には鈍痛あるいは頭重感として自覚され,その後徐々にひどくなり,痛くて寝込んでしまうことも多いようです.また発作中,悪心や嘔吐を伴ったり,光や音に対して過敏になったり,運動や咳は頭痛を増悪させるといわれています.

 一般に発作は月1~2回から3~6ヶ月に1回程度ですが,発作が5回以上あり,脳血管障害,髄膜炎,脳腫瘍など脳の器質的疾患を除外できれば,片頭痛と診断できるとされています.また片頭痛の誘発因子としては,食べ物(チーズ,チョコレート,ナッツ,アルコールなど),睡眠の不足や過剰,空腹,ストレス,人混み,強い光,薬物(血管拡張薬など)が知られています.また女性では月経の直前や月経時に多いといわれています.また頭痛発作の24~48時間前に予兆として倦怠感,眠気,空腹感,うつ,興奮などを自覚することが数10%に認められるという報告もあります.

 病因の1つとして血管説が考えられています.これはまず何らかの誘因により血中の血小板からセロトニンという物質が過剰に放出され,頭蓋骨内外の血管が収縮します.この際,脳の血流が低下しますと閃輝暗点という片頭痛の前兆が生ずるといわれています.次にセロトニンが分解されると今度は血管の過剰な拡張や血管の透過性が亢進し,各種炎症物質が産生され,血管壁に炎症や浮腫をきたすというものです.この他に三叉神経血管説があります.三叉神経というのは頭部,顔面,口,鼻,硬膜などの感覚を司っている脳神経であり,何らかの刺激により三叉神経からサブスタンスP,ニューロキニンA,CGRPといった血管作働性の神経ペプチドが過剰に分泌され,血管が過剰に拡張して透過性が亢進し,血管の周囲に炎症が起こり,三叉神経を介して脳に痛みとして伝わるというものです.

 治療としては,発作時の対処と予防に大きく分けられます.まず発作時ですが,頓挫薬としてはトリプタン製剤を用います.トリプタン製剤は,選択的に血管と三叉神経のセロトニン(5-HT1B/1D)受容体と結合し,異常に拡張した血管を直接収縮させるといわれています.発作直後に内服すればする程よく効き,大体30分~1時間で頭痛はおさまります.但し血管を収縮させるため狭心症や心筋梗塞を誘発させる恐れがあるため,虚血性心疾患をお持ちの方は要注意です.またこのような鎮痛薬をあまりに使用しすぎることは薬剤誘発性の慢性連日性頭痛に移行する危険性があります.月に3回以上の発作がある場合や10回以上も鎮痛薬を使用する場合には,先に述べたような誘発因子を避けるように努めることや予防薬を用いることをお勧めします.予防薬としては塩酸ロメリジンというカルシウム拮抗薬(脳血管の収縮抑制や血小板の凝集抑制などの作用が考えられています),β遮断薬,抗うつ薬などが用いられており,発作を3割程度軽減できるといわれております.

 インターネットでご質問された方は,運動を始めて1時間くらいしてから吐き気を伴い脈打つような激しい頭痛が起こるとのことで,また通常の鎮痛剤が余り効かないことからも片頭痛の発作と考えて間違いないと思います.この方の場合,運動によって頭に行く血管が拡張して発作が誘発され,さらに頭を動かして増悪しているように思います.予防策として運動中に適度に頭を冷やすなど工夫をするとよいかもしれません.次に私の外来にこられたパンやケーキ作りで頭が割れるような頭痛をきたす女性ですが,この方の場合,既に片頭痛と診断はついており,誘発因子としてオーブンによる電磁波や熱気などの可能性も考えましたが,チーズやワインなどでも頭痛が起きるといわれましたので,パンやケーキを作る際に使用するイースト菌が原因でないかと考えました.マスクや手袋をして調理することは折角の楽しい料理作りにとって煩わしいことかもしれませんが,片頭痛はそれ以上に辛いものなのでこの方は実際にマスクや手袋をされたそうで,それ以降,頭痛の回数が減ったと言われております.

 とにかく片頭痛は,必ずしも片側性や拍動性であるとは限りませんので,慢性の頭痛で吐き気を伴ったりして日常労作に耐えられないような頭痛は片頭痛を疑ってかかるとよいといわれています.そのような経験をお持ちの方は片頭痛用の薬を是非一度試してみられたらよいと思います.

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