神経内科について

2009.09.20 放送より

 伊月病院がお届けする「あなたの診察室」が先日より再開されましたが,私にとっては今回が再開後の初回と言うことで,今日は私の専門であります神経内科についてお話いたします.実はもう7,8年前になるかと思いますが,前回にも神経内科についてご説明したことがあります.その当時と違いまして「神経内科」という科の名称も徳島県では,大部市民権を得てきたように思いますが,一方ではまだまだ心療内科や神経科,精神科などと混同されることが多いようにも思われます.そこでまずは神経内科の科としての特徴を述べ,次にどの様な患者さんの診療をしているかお話ししたいと思います.

 そもそも神経内科は,英語でNeurologyという用語を九州大学で昭和39年に日本で初めて神経内科の教授になられた黒岩義五郎先生が和訳された言葉です.Neurologyの前半のNeuroという部分はNeuronすなわち神経あるいは神経細胞という言葉で,残りのlogyとは学問という意味です.すなわち直訳すれば神経学という言葉になり,本来は神経科と訳した方がより正確であるのかもしれません.しかし日本では後発であるNeurologyに対して先発の精神科(Psychiatry)の中には,その当時から既に神経科あるいは神経精神科と標榜しているところが多々ありました.すなわち精神科では不安神経症であるノイローゼも取り扱っていることから神経科と名乗ったものと思われます.そこでこの2つの科の混乱を避けるべく黒岩先生は,神経内科と名付けられたと聞いております.というわけで神経内科は脳や脊髄にある神経細胞の病気を内科的に診療する科ということになります.それで中には脳神経内科と標榜しているところもあるようです.

要するに神経内科では,患者さんの手足の痛みや脱力,言語障害や嚥下障害,めまいや複視,さらには健忘など神経の障害に起因した症状について,神経系の病変の局在と性質を科学的・論理的に分析してどこがどの様に悪いのか診断を下し,治療してゆく内科系の診療科であります.これに対して一般の人によく間違われやすい精神科(あるいは神経科,神経精神科や精神神経科)は,ものの考え方や感じ方などに変調をきたした患者さんの症状や所見を観念論的に理解して診断し,治療してゆく科であります.そしてまた神経内科よりも新しい診療科として心療内科という科も耳にします.これは「病は気から」という言葉がありますが,例えば胃潰瘍や高血圧は精神的ストレスで発症することがあり,また逆に胃潰瘍や高血圧により精神的にストレスがかかってしまうという悪循環をきたし,いずれか一方だけを治療しようとしてもうまくいかない場合,心と体,すなわち心身両面から治療していこうという内科系の科をいいます.

このようによく似た言葉がいろいろあって紛らわしいのですが,神経内科とは,簡単に言えば脳神経外科の内科版(実際には少し違いますが)と思っていただくと一般の患者さんには理解していただきやすいかと思います.そして内科は勿論のこと小児科,脳神経外科,整形外科,精神神経科それに心療内科などとも連携して診療しております.

 それでは次に神経内科では具体的にどういう疾患をあつかっているかお話しいたします.神経内科で診療する主な疾患としては,まずは脳血管障害があげられます.これには脳梗塞,脳出血,くも膜下出血,それに一過性脳虚血発作などが含まれます.脳血管障害といえば従来から脳神経外科の病気というイメージが強いようですが,外科的処置を要する脳出血やくも膜下出血などを除き,保存的な治療で済む脳梗塞などは,始めから神経内科がみて治療するのが一般的です.それから次に神経内科では神経難病をあつかっております.私の専門分野でもあり,今後,順次この放送でも取り上げて行きたいと思いますが,この中に属する病気としては,アルツハイマー病などの各種認知症,パーキンソン病,筋萎縮性側索硬化症,脊髄小脳変性症など神経変性疾患に属するグループと多発性硬化症や重症筋無力症など自己免疫性神経疾患に属するグループがあります.これらの疾患の特徴は,治りにくく社会問題として取り上げられることも多く,また他の診療科がほとんど扱っていないという特徴もあります.それからより一般的で身近な疾患としては緊張性頭痛や片頭痛といった各種頭痛やめまいなどもあります.さらに脳髄膜炎,各種脊髄疾患,末梢神経疾患,筋疾患などに加え,精神科などとの境界領域としててんかん,軽度のうつ病,心身症なども対象としております.

 神経内科は,あつかう疾患が多種多様であり守備範囲の広いのが特徴の1つであります.最近,内科が循環器,消化器,呼吸器,腎臓,血液,代謝・内分泌などなど,どんどんと細分化して全身を総合的に診てもらえなくなりつつあります.神経内科ではこの穴を埋めるべく総合診療科的な役割を果たしていることもあります.どうせ分からないからと諦めている方にはぜひとも1度受診していただきたい科であるとお勧めしたいと思います.

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