神経難病について

2009.09.27 放送より

 これまでにも部分的に何度かお話ししたことがありますが,今日は私の専門としている神経難病についてお話しいたします.まずそもそも神経難病とは,病因が不明で治療法が未確立であり,経過が慢性のために肉体的だけでなく精神的にも経済的にも負担の大きな神経疾患のことをいいます.現在厚生労働省が指定した特定疾患いわゆる難病が45疾患ありますが,神経難病はその中の約1/3を占めており,さらに神経変性疾患に属するものと自己免疫性神経疾患に属するものの2つに大きく分かれます.

 それではこれらの中から代表的なものを取り上げてみたいと思います.まずは神経変性疾患に属するもので最も頻度の高い疾患でありますパーキンソン病です.この病気はこれまでにも何度となく取り上げてきましたので皆様よくご存じの方も多いと思います.しかし近年多くの研究によりかなりのところまで病因が解明されてきた一方,よく似ているがちがう病気も混じっていることが明らかになって参りました.そこで一昨年あたりから特定疾患の申請に際してパーキンソン類縁疾患として詳しく区別してゆくことになりました.

この中でやはり最も多いのは,本家本元のパーキンソン病であり,これは人口100万人当たり100人の有病率で,今後人口構成の高齢化とともに120人,140人と増加してゆくことが予想されます.発症は60歳代のことが多いのですが,若年性の方もおられます.安静時の振戦,筋固縮,無動が主な症状ですが,1部を欠くこともあり,逆に運動症状以外で便秘,排尿障害,立ちくらみなど自律神経障害を伴うことも多いようです.L-ドーパを始めさまざまなお薬が良く効き,MRIやCTなどで脳を調べても大きな異常が出にくいことが特徴です.薬が良く効くため天寿を全うできるくらい予後がよいといわれていますが,病状が進行してきて薬の効きにくい体位変換障害が出てくると介助が必要となり,なかなか大変です.

これに対してパーキンソン病によく似た神経変性疾患として頻度は少ないのですが進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症,汎発型レビー小体病(これはまだ特定疾患申請の際,正式にはパーキンソン病と区別し切れていない)などがあります.これらにはいずれも振戦,筋固縮,無動といういわゆるパーキンソン症状が認められますが,汎発型レビー小体病を除いて薬が効きにくいことと幻覚や認知障害など精神症状が早期から出やすいという特徴があります.この違いはパーキンソン病が頭の中でドーパミンを作っている中脳の黒質という特別な場所に比較的限局して神経細胞が障害されているのに対して,これらの疾患ではもっと広汎な部位で神経が障害されており,薬が効きにくく予後も良くないといわれております.

次にその他の神経変性疾患に属する難病いたしましては,筋萎縮性側索硬化症があります.これは難病中の難病として新聞でもよく取り上げられています.すなわち運動神経がどんどん障害され,その結果,手足を始め全身の筋肉が萎縮し,数年で寝たきりとなり呼吸も出来なくなる非常に怖い病気です.原因は不明であり,今のところ根本的な治療はないのですが,人工呼吸器などの使用により元気に在宅療養されている患者さんも増えてきているようです.

それから脊髄小脳変性症という神経変性疾患もあります.この病気の主な症状は,小脳が障害されるためお酒に酔っているかのように見えます.すなわち呂律が回らない,フラフラして歩きにくい,字が上手に書けないなど手作業が不器用になったなどです.この症状だけの型(=小脳型)の経過は10年から20年以上と非常にゆっくりしているのですが,これ以外に先ほど述べました振戦や筋固縮などのパーキンソン症状,立ちくらみ,膀胱直腸障害などの自律神経障害など多系統の障害を伴っている型(=脊髄小脳型あるいは多系統萎縮症)では進行が早く,5~7年位で寝たきりになります.

 続きましてもう1つのグループであります自己免疫性神経疾患に属する多発性硬化症ついてお話しします.これは10~50歳の若い女性に多く,脳や脊髄の刺激を伝える神経線維を取り巻いている髄鞘という部分に障害(=脱髄)をきたすため,視力障害,感覚障害,運動麻痺,小脳失調,膀胱直腸障害と多彩な症状をきたします.しかも神経細胞を直接障害するわけでないため症状が回復しやすいという特徴があります.しかし緩解してもまた再発する可能性があるためやはり難病であり,ステロイドやインターフェロンなどが治療に用いられております.それから重症筋無力症という病気もあります.これも女性に多い病気であり,運動神経から筋肉へと刺激を伝えるアセチルコリンという物質を受け取るアセチルコリン受容体に対して胸腺という組織で自己抗体が造られることにより筋肉がうまく収縮出来なくなり,眼や頚を始めとした筋肉の脱力と易疲労性を主症状とした病気です.治療には胸腺を取ったり,アセチルコリンを増やす薬やステロイドを始めとした免疫抑制剤などが使われますが,若い女性に多くなかなか厳しい病気です.

 以上,今日はごく簡単に神経難病のお話をさせていただきました.難病とはいえ少しずつ進歩もしておりますので,機会がありましたらまたもう少し詳しくお話しさせていただきたいと思います.

 

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