認知症について

2009.11.22 放送より

 認知症というのは,いったん発達していた知能が何らかの後天的な疾患によって全般的かつ持続的に低下し,日常生活に支障をきたした状態と定義されると先日お話しましたが,この認知症という言葉はまだ新しく,それまでは痴呆と呼ばれていましたものを,行政や高齢者介護の分野で差別用語につながるとして2004年に厚生労働省よって言い換えられました.今日はその認知症をきたす疾患について代表的なものをいくつか説明してゆきたいと思います.

 まずは認知症の代表として名高いのは,皆様ご存じのアルツハイマー病であります.この病気は,認知症の半分以上を占め,日本では現在約150万人の方が罹患されていると言われており,さらにお年寄りほど有病率が増えることから,今後の人口の高齢化とともにますます増えてゆくものと思われます.この病気の症状は,病初期で最も目立つのは,記銘力(新しくものを覚えること)や記憶力(いったん覚えたことを思い出すこと)の低下であり,特に新しい記憶が障害されます.この結果,昨日や今朝のことをまったく忘れてしまったり,同じことを何度も聞いたり,今日の日付が分からなかったりいたします.ど忘れとの違いは,食事を例にするとその内容だけではなく食べたこと自体をそっくり忘れてしまうという点であります.そしてもう少し進んでくると,昔のことや見慣れてよく使うものの名前も忘れ出したり,時間が分からなくなったり,自分がどこにいるのか分からなくなり,外出先から戻れなくなります.さらに少し人格の障害や性格の変化も見られだし,ものをとられたあるいは亡くなった人が生きているなどの妄想や幻覚が出てきたり,徘徊したりするようになります.そして最終的には,自分の名前を忘れたり,意味不明の単語を話したり,鏡徴候といって鏡に映った自分の姿を自分と認識できずに鏡に向かって話しかけたりします.また食事,着脱衣,排泄など日常生活全般に介助が必要となり,寝たきりとなって大体8~10年で死に至るという経過となります.病因については,大脳に神経細胞の脱落とともに神経原性変化と老人斑の出現という特殊な変化が認められます.そしてこの老人斑にアミロイドという蛋白が沈着していることより,このアミロイド沈着による神経毒性や神経保護作用の低下により大脳の神経細胞の障害が進行してゆくと考えられております.その結果,治療に関しましては,現時点では薬物療法として脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンの分解を抑える塩酸ドネペジルという薬剤が唯一保険適応となっており,認知症の進行をある程度緩和出来るとされています.しかしこれでは根本的治療ではなく,勿論不充分ですので,現在,アミロイド蛋白を免疫的に排除しようとするワクチン療法やアミロイド蛋白を作るために必要なγ-セクレターゼという酵素を阻害する薬による国際共同治験(これには伊月病院も参加しております)が現在進行中で,そう遠くない将来にアルツハイマー病が不治の病でなくなる日が来るように思われます.

 次にアルツハイマー病以外の認知症についてお話しいたします.まず従来,2番目に多いとされていたのが血管性認知症であります.これは主として脳梗塞などの虚血性病変によって引き起こされます.小さな脳梗塞の発作を繰り返して階段状に認知症が進行してゆく多発梗塞性認知症やBinswanger型認知症と言いまして大脳白質の広範な変性によりいつの間にかじわじわと認知症が進んでゆくようなものなどがあります.症状としては,認知症に加えて巣症状といいまして,梗塞が起こった場所に特徴的な神経障害,例えば片麻痺,失調症,失語症などの合併も見られます.血管性認知症は動脈硬化と関係が深いため,高血圧,糖尿病,高脂血症,心臓疾患(心房細動,僧帽弁膜疾患,急性心筋梗塞など),血液因子(多血症や血栓を起こしやすい各種疾患)などの危険因子が報告されております.これらをコントロールすることが認知症発症の予防あるいは進行の抑制に有用であるといわれております.

 それから血管性認知症と同じくらい多いのではないかと最近注目されている疾患にパーキンソン症状を伴った認知症があります.これにはレビー小体病,進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症といろいろな疾患が含まれています.その中でもレビー小体病では,パーキンソン症状の出現よりも1年くらい先行して理解力や判断力の低下などが見られることがあります.そして記憶力の低下よりも幻覚(特に幻視)や妄想など精神的な症状が強いという特徴があります.こういった場合,抗パーキンソン病薬や向精神薬などにて治療をしてゆく必要があります.

この他にもわずか5%ではありますが,2次性認知症といいまして内科的疾患に伴う認知症や脳腫瘍あるいは水頭症などでみられる認知症は,器質的変化をきたす前に治療することにより認知症自体も治すことができますので,早期発見と適切な治療が重要であります.認知症と思われてもあきらめずにすぐ専門医を受診するようにしてください.

 

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