多発性硬化症について

2011.03.06 放送より

  前回は神経難病の中でも神経変性疾患に属する脊髄小脳変性症についてお話しいたしました.神経変性疾患というのは,原因不明で神経細胞がどんどんと障害されて死滅していく疾患ですが,これに対して神経難病のもう1つのグループとして自己免疫性神経疾患というものが有ります.これは免疫系の異常により自分で自分の体を障害してしまう自己免疫疾患が神経系に起こったもので,その代表の1つである多発性硬化症について,本日はお話ししたいと思います.

  多発性硬化症の特徴は,その多発性という部分にあります.すなわち時間的にも空間的にも多発すると言うことで,時間的多発性とは何度も再発や緩解を繰り返すことを,空間的多発性とは,大脳,脳幹,小脳,視神経に脊髄と中枢神経系のいろいろな部分に病変が出現するということを示します.この病変は治癒していくと線維化のように硬くなるので硬化症という名の由来となっています.そしてこの病変の原因は自己免疫によると考えられています.すなわち本来細菌やウイルスなどから自分を守るべき免疫系が変調をきたして自分の脳や脊髄に対して自己抗体を作って攻撃してしまい発症すると言われております.この自己抗体としては従来オリゴデンドログリアという細胞が作る髄鞘(電線のビニールの皮膜に相当)という部分に対するものが考えられておりましたが,多発性硬化症の中でも視神経脊髄型と呼ばれていたものでは,アストログリアが作っており細胞内に水を通す働きをしているアクアポリン4というものに対して抗体(抗AQP4抗体)ができていることが近年分かってきました.多発性硬化症は欧米では人口10万人当たり50人とかなり多い病気でありますが,日本では8-9人程度と言われております.そして自己免疫的な疾患ですので膠原病と同じように平均発症年齢が30歳前後の若年女性に多いと言われております.

  それではこの病気の症状について説明いたします.この病気の特徴は,病変が空間的に多発するためどの神経が障害されるかによって症状は十人十色となります.すなわち視神経や脳幹にある脳神経が障害されたら視力障害や視野の異常,複視,顔面筋の麻痺,嚥下障害や言語障害などをきたします.また大脳が障害されると反対側の運動神経や感覚神経の麻痺,てんかんなどが起こりますし,小脳が障害されますと平衡感覚の障害,巧緻運動の障害(細かな運動の障害),嚥下や言語の障害などを認めます.さらに脊髄で障害が起こりますと同側の運動神経の麻痺や感覚障害,膀胱直腸障害などがみられます.このように障害される場所によって症状は異なり,いろいろな病気との鑑別が必要になります.またこの病気に特徴的な症状としては,Uhtohoff徴候と言って入浴や気温が高いなどの理由により体温が上がりますと症状が悪化することがあります.これらの症状が急に始まり大体1週間ぐらいでピークに達して完成し,その後,ある程度は自然に回復します(緩解).しかし平均して年に1-2回は再発(=時間的多発性)するようで,多発性硬化症で最も多い型は,この緩解と再発を繰り返す型であります.この中で再発のたびに少しずつ障害が残って積み重なって進行して行くものがあります.その1方で最初から慢性進行性に増悪して行くものや10年たってもまったく障害を残さないものもあります.なお抗AQP4抗体が陽性の視神経脊髄型として新たに別の病気として分けられた型では症状がより重篤で,初回発作で失明する危険性や下肢の痙性対麻痺により車椅子状態になる危険性が高いことが分かってきました.

  次にこの病気の診断についてですが,初回発作の場合,時間的な多発性が証明されず診断しづらいのですが,診察所見から病変があるだろうと推測される部分にMRI検査のT2強調画像で高信号領域が見つかれば,より疑わしくなります.また神経伝導検査のうち視覚や体性感覚の誘発電位検査で異常がないかどうかや髄液検査で蛋白の増加やオリゴクロナルバンドが検出されるかどうかも参考になります.いずれにしましても人それぞれに症状が違うため専門的な神経学的診察により他の多くの神経疾患から鑑別する必要があります.

それからこの病気の治療でありますが,再発期にはステロイドパルス療法や血漿交換を行い,短期にステロイドを内服することもあります.そして緩解期には発作を予防するためインターフェロン療法を行うことが一般的になりました.これに対して視神経脊髄型では急性期は同じですが,緩解期にはインターフェロンではなく少量のステロイド内服を続けることが勧められております.そのほかリハビリテーションや対症療法としてしびれには抗てんかん薬や抗うつ薬を,排尿障害には排尿改善剤などを使用いたします.この病気は若い人に多いと言われておりなかなか大変ですが,今年中にも新しい治療薬がまた発売されるとも言われており,今後の研究成果が大いに期待されております.

 

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