脳血管障害について(2)

2017.04.09 放送より

 本日は前回の高血圧性脳出血に引き続いて出血をきたす脳血管障害についてお話しいたしますが,これにはくも膜下出血や慢性硬膜下血腫があります.そこでまずはくも膜や硬膜について説明します.

 そもそも脳は髄膜という膜によって包まれて頭蓋骨から保護されています.髄膜は脳の側から向かって内側から軟膜,くも膜,硬膜という3つの膜から構成されています.このうち軟膜は薄くて柔らかい膜で脳の凹凸に添って皮質の溝の中にまで入り込んでぴったりと接しており,脳および脊髄の神経組織と癒着しています.軟膜は側脳室や第三脳室などでは脈絡叢という組織と一緒になって脳室を支持しており脳脊髄液の産生に関わっております.次にくも膜は軟膜と硬膜の間にあり,硬膜下隙というわずかな隙間を残して硬膜とは密着していますが,軟膜との間にはくも膜下腔という広い空間を形成し,脳脊髄液で充たされています.くも膜はその外側の脳硬膜を貫いて,頭蓋内の静脈洞とよばれる静脈系にくも膜顆粒と呼ばれる突出を作っており,このくも膜顆粒が脳脊髄液を吸収して静脈血に吸収される場所と考えられています.それから1番外側の硬膜ですが,これは多量の膠原線維を含む強靭な膜で,2層からなりその間に静脈洞と呼ばれる脳から出てゆく静脈が流れる経路を形成しているとともに,脳を頭蓋骨や椎骨につなぎとめる役目をしております.

 さてそれではくも膜下出血について説明いたします.くも膜下出血はくも膜と軟膜の間に存在し脳脊髄液が充たされているくも膜下腔に出血が起こって発症します.50-60歳台に好発し,男女比2:1と男性に多く,脳血管障害の約8%,突然死の約7%を占めるといわれています.約80%が脳動脈瘤の破裂によりますが,そのほかにも脳動脈奇形,もやもや病,頭部外傷などによることもあります.危険因子としては高血圧,喫煙,アルコール多飲などが知られています.症状は突然始まる頭痛で数日間は持続し,これまでに経験したことの無いくらい激しいもので,髄膜刺激症状があり,嘔吐を伴うことも多いようです.片麻痺などの神経局在徴候は伴わないことが多いのですが,出血量が多いと意識障害もきたします.診断は頭部CTでくも膜下腔に高吸収領域を認めることにより下すことができますが,利用できない場合には,髄液検査で出血を確認する必要があります.治療については,脳動脈瘤破裂の場合は発症直後,特に24時間以内に再出血がきたすことが多く(約20%),重症でなければ降圧剤や鎮痛剤,鎮静剤などを使って安静を保ち血圧が上がらないようにし,可能な限り72時間以内にできるだけ早く外科的手術(開頭動脈瘤クリッピング術,血管内治療)を行います.しかし意識障害を伴った重症例では手術適応も無く予後が悪く重篤な経過をたどります.大体,最初の出血で3分の1が死亡し,その後,24時間以内に約20%に再出血が起こるといわれています.さらに発症後4日から14日の間に3-4割の割合で血腫の影響で脳の動脈が縮む脳血管攣縮が起こり,出血を起こした血管以外の血管も攣縮して脳梗塞を合併することもあります.このため4週間以内に約半数が死亡するともいわれており,救命できても後遺症が残ることが多く,完全に治癒するのは約2割といわれています.さらに急性期を過ぎても数ヶ月位してからくも膜下腔での脳脊髄液の吸収障害から正常圧水頭症を併発してシャント手術が必要となることもあります.

 次に慢性硬膜下血腫ですが,これは主にアルコール常飲者の高齢男性に見られます.頻度は人口10万人に対して年間1~2人とされています.比較的軽微な頭部外傷後1~数ヶ月後,あるいは頭部打撲のはっきりした既往が無い場合(10~30%)でもいつの間にか硬膜と脳との間に血液が貯まる病気で,血腫が脳を圧迫して様々な症状がみられ,頭部CTで3日月状の血腫を認めることにより診断されます.好発部位は前頭,側頭,頭頂部で,右か左かの一側性のことが多いのですが,約10%には両側性のこともあります.症状としては,典型例では頭部外傷後,無症状の時期を経てしばらくしてから頭痛,嘔吐などの頭蓋内庄亢進症状,片麻痺,しびれ,歩行障害,痙攣,意識障害,意欲の低下,失語症,記名力障害,見当識障害などの精神障害とさまざまな神経症状が見られます.これらの症状は発症年齢により,かなり差があり,若年者では脳の萎縮が少なく主に頭痛,嘔吐を中心とした頭蓋内庄亢進症状や片麻痺など局所神経症状がみられやすいのに対して,高齢者では潜在する脳萎縮により頭蓋内圧亢進症状は目立たず,認知症などの精神症状が主症状となり,アルツハイマー型認知症などと誤診されてしまう危険性があります.治療としては,血腫が少量であれば保存的に経過を見て自然の吸収を待ちますが,血腫量が多い場合は局所麻酔下に穿頭血腫ドレナージ術を行います.この手術は侵襲が比較的低く,術後に劇的に症状が改善しますが,術後約10%に再発が見られるといわれています.基本的には予後が良好な疾患ですが,症状の進展が緩除なゆえに発見に時間がかかって脳ヘルニアを起こすまでに至った場合には,死亡したり重篤な後遺症を残す可能性もあるので見逃さないよう注意が必要です.

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