片頭痛について

2001.10.25 放送より

 今日は、よく効く新しいお薬が最近発売されたということで、片頭痛についてお話ししたいと思います.片頭痛は、まるで血管の脈拍に合わせて頭がズキンズキンと痛む血管性頭痛の代表で、成人の約8%の人にみられるといわれております.皆様もご存じのように女性に多い病気で、女性には男性の約4倍みられ、思春期頃から多くなり、最盛期は30歳代で、大体60歳頃にみられなくなります.また家族歴があることもままあり、特に母から娘へと母系遺伝の例が多いとされています.

 片頭痛は片頭痛というくらいですから、通常は片側性で眼窩後部や前頭ないし側頭部に頭痛を認めることが代表的ですが、左あるいは右と発作の際に部位が移動したり、あるいは両側性に起こることもあります.発作の初期には鈍痛あるいは頭重感として自覚されるくらいですが、頭痛発作は4時間ないし72時間程度持続して、徐々に程度がひどくなり、痛みのため日常生活は妨げられ寝込んでしまうくらい重度になることも多いのです.

 また発作中、悪心や嘔吐を伴ったり、光や音に対する過敏性を認めることもありますし、運動(特に階段の上り下り)や咳は発作を増悪させるといわれています.一般には発作の頻度は月1~2回から3~6ヶ月に1回程度ですが、こういった発作が5回以上あり、脳血管障害、髄膜炎、脳腫瘍など脳の器質的疾患を除外できれば、片頭痛と診断できるとされています.

 また片頭痛の中の約5分の1には前兆を伴うもの(古典的片頭痛)があります.前兆には視界にチカチカした光の点が出現する(いわゆる閃輝暗点)、指がジンジンする感じ、半身の麻痺、言語障害などがあり、脳の局所神経症状と考えられております.前兆は4分以上(大体20~30分くらい)続き、60分以内には終わり、次いで片頭痛が出現します.前兆を伴うものの方が、頭痛の持続時間が長いといわれています.

 誘発因子としては、食べ物(チーズ、チョコレート、ナッツ、アルコールなど)、睡眠不足や睡眠過剰、空腹、ストレス、人混み、強い光、外傷、薬物(ニトログリセリンや血管拡張薬など)が知られています.また女性では月経の直前や月経時に多く、妊娠時には起こりにくいことが知られています.また頭痛発作の24ないし48時間前に予兆として倦怠感、眠気、空腹感、うつ、興奮などを自覚することが数10%に認められるという報告もあります.

 病因としてはいくつか考えられていますが、主なものの1つとして血管説があり、これはまず何らかの誘因により血液中の血小板からセロトニンという物質が過剰に放出され、頭蓋骨内外の血管が収縮します.この際、脳の血流が低下しますと閃輝暗点という片頭痛の前兆が生ずるといわれています.次いでセロトニンが分解されると今度は血管が過剰に拡張し、これによって血管の透過性が亢進し、各種炎症物質が産生され、血管壁に炎症や浮腫をきたすというものです.

 このほかに三叉神経血管説がありますが、三叉神経というのは頭部、顔面、口、鼻、角膜、硬膜などの感覚を司っている脳神経であり、何らかの刺激により三叉神経からサブスタンスP、ニューロキニンA、CGRPといった血管作働性の神経ペプチドが過剰に分泌されます.そしてこれにより血管が過剰に拡張して透過性が亢進し、血管の周囲に炎症が起こり、三叉神経を介して脳に痛みとして伝わるというものです.

 治療としては、発作時の対処と予防に大きく分けられます.まず発作時ですが、従来は非ステロイド性消炎鎮痛薬や非選択性的セロトニン作動薬であるエルゴタミン製剤が頭痛の頓挫薬として用いられてきました.しかし効果が充分でなく、さらに胃腸障害も強いため、位静かな部屋で、アイスバッグなどで頭を冷やしながら横になって一寝入りするのがⅠ番の対処法でした.しかしこの8月末に発売された経口投与の出来るトリプタン製剤のおかげでうんと楽に済むようになりました.
トリプタン製剤は、選択的に血管と三叉神経のセロトニン(5-HT1B/1D)受容体と結合し、異常に拡張した血管を直接収縮させるといわれています.発作直後に内服すればする程よく効き、大体30分~1時間で頭痛はおさまります.但し血管を収縮させるため狭心症や心筋梗塞を誘発させる恐れがあるため、虚血性心疾患をお持ちの方は要注意です.またこのような鎮痛薬をあまりに使用しすぎることは薬剤誘発性の慢性連日性頭痛に移行する危険性があります.

月に3回以上の発作がある場合や10回以上も鎮痛薬を使用する場合には、先に述べたような誘発因子を避けるように努めることや予防薬を用いることをお勧めします.予防薬としては塩酸ロメリジンというカルシウム拮抗薬(脳血管の収縮抑制や血小板の凝集抑制などの作用が考えられています)、β遮断薬、抗うつ薬などが用いられており、発作を3割程度軽減できるといわれております.

 いずれにしましても片頭痛は、発作時には余りに苦しくてなかなか受診もしにくいものですが、1度専門の先生にかかって診断を確定させて、新しい薬を使ってみれば随分すっきりするものと思われます.

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