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キアゲハ通信No.011-「朱に交われば・・・」

2014.02.24 更新

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「朱に交われば・・・」

院長 西田 善彦

  「朱に交われば赤くなる」 この諺の本来の意味は“人は交わる友によって善悪いずれにも感化される(広辞苑第4版より)”と思いますが,最近ではもっぱら悪く感化されることばかりが強調されているように思えます.その最たるものが今年日本で降ってわいた狂牛病問題です!?

 狂牛病というのは,神経細胞がどんどん変性して脳がスポンジのようになってゆく牛の致死性の病気で,1986年に英国で発見されました.しかもそれが牛骨粉を介して牛から牛へ,さらには人へも伝播(すなわち新変異型クロイツフェルトヤコブ病)していったので大問題になったのです.従来の感染症と違い衝撃的であったのは,この病気を移してゆくのが細菌やウイルスなどのDNAを持った微生物ではなく,正常の動物(あるいはヒト)が持っている蛋白そのものであったことです.このことを発見した米国のプルシナー博士は既にノーベル賞を受賞しております.彼の論文によりますと,まず脳内に存在するプリオン蛋白(=感染性蛋白粒子,proteinaceous infectious particleから命名)が突然変異により,立体構造が変わり酵素や通常の煮炊きなどでは分解されない頑固な悪玉プリオンともいうべき蛋白に変わります.さらにこの変異型プリオンは隣に接したプリオン蛋白の構造(実はプリオン蛋白自体は元々立体構造を変化させながら存在しているのです)に影響を及ぼし,次から次へと悪玉だらけにしてゆきます.この結果,神経細胞は役立たずの蛋白質だらけとなって機能を維持できなくなり死んでしまうというのです.

 現在はまだクロイツフェルドヤコブ病は不治の病ですが,向精神薬やマラリアの薬などを使ってプリオン蛋白の悪玉化を防ぐ研究が行われていると聞きます.この病気も困ったものですが,世の中から善人がいなくなってはなお困ります.人間本来は善悪いずれにも変わりうるもののはずですから,ぜひとも良いほうに感化されてゆきたいものです.

(院内広報誌「なんきんまめ No.38(2001.12.25)」に掲載)
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