アルツハイマー病以外の痴呆について

2002.04.29 放送より

 前回、痴呆の代名詞ともいうべきアルツハイマー病についてお話しいたしました.今回はそのほかの痴呆についてお話したいと思いますが、その前に前回のお話から大部時間がたっておりますので、アルツハイマー病についてもう一度おさらいしたいと思います.

 アルツハイマー病は全痴呆の約30%を占める痴呆の中では最も多い病気であります.その症状としては、まず病初期には抑うつや自発性の低下などもみられますが、やはり一番目立つのは、記銘力(新しくものを覚えること)や記憶力(いったん覚えたことを思い出すこと)の低下であり、特に新しい記憶が障害されます.この結果、昨日や今朝のことをまったく忘れてしまったり、同じことを何度も聞いたり、今日の日付が分からなかったり、計算が出来なくなったりします.

 次ぎにもう少し進んでくると、昔のことも忘れ出したり、見慣れたものの名前も言えなくなったり、時間が分からなくなったり、自分がどこにいるのか分からなくなり、外出先から戻れなくなります.さらには人格の障害や性格の変化もみられだし、ものをとられたあるいは亡くなった人が生きているなどの妄想や幻覚が出てきたり、徘徊したりするようになります.そしてさらに進行しますと、自分の名前を忘れたり、意味不明の単語を話したりするようになります.

 また食事、着脱衣、排泄など日常生活全般に介助が必要となり、寝たきりとなって大体8~10年で死に至る経過となります.病因としては、詳細は依然としてまだ不明ですが、大脳に神経細胞の脱落とともに神経原性変化と老人斑の出現という特殊な変化がみつかっており、これがシナプス結合の消失や軸策輸送の障害あるいは神経保護作用の低下などによって起こっている可能性があります.診断は、各種の知能検査で痴呆があることを判定し、神経学的診察に加えて、頭部のCTやMRIなどの画像検査や各種血液検査などで他の痴呆をきたす疾患を除外いたします.

 それでは、アルツハイマー病以外のいろいろな痴呆をきたす疾患についてお話しいたします.まず、アルツハイマー病と鑑別するに当たって最も多いのが血管性痴呆であります.これは出血性病変といいまして脳内出血やくも膜下出血の後でも生じますが、主として虚血性病変すなわち脳梗塞などによって引き起こされるものが多いと思います.

 そして大きな脳梗塞あるいは小さく限局した病変でもたまたま記憶やさまざまな判断に関係した部位が障害されますと一度きりの脳卒中発作でも痴呆になることがあります.また小さな脳梗塞発作を繰り返しおこして階段状に痴呆が進行してゆく多発梗塞性痴呆や少し特殊な型ではありますが、Binswanger型痴呆と言いまして大脳白質の広範な変性により緩徐進行性すなわちいつの間にかじわじわと痴呆が進んでゆくようなものもあります.

 症状としては、脳梗塞後に起こる痴呆の場合、いわゆる痴呆の症状に加えて巣症状といいまして、梗塞が起こった場所に特徴的な神経障害、例えば片麻痺や失語症などの合併も見られます.また先ほど申しました階段状の進行やまだら痴呆といいまして痴呆の部分としっかりした部分が入り交じっている場合は血管性痴呆をより疑わせる所見であります.血管性痴呆は動脈硬化と関係が深いため、高血圧、糖尿病、高脂血症、心臓疾患(心房細動、僧帽弁膜疾患、急性心筋梗塞など)、血液因子(多血症や血栓を起こしやすい各種疾患)などの危険因子が報告されております.これらをコントロールすることが痴呆発症の予防あるいは進行の抑制に有用であるといわれております.

 その他の痴呆としては、アルツハイマー病以外の神経変性疾患、難治性のてんかんによるもの、脳の外傷、脳腫瘍、水頭症などによる脳の器質的障害、ヘルペス脳炎や日本脳炎など神経系の感染症、そして内科的な疾患に伴う痴呆などがあります.神経変性疾患に属するものとしては、パーキンソン病類似の疾患として進行性核上性麻痺、皮質基底核変性症、汎発型レビー小体病などがあります.これらはパーキンソン病でみられる筋固縮や無動などがあってもL-ドーパが効きにくい上、パーキンソン病では通常末期まで痴呆がみられないのに対して、早期から幻覚や妄想などの精神症状と共に痴呆がみられるという特徴があります.それから内科的疾患に伴う痴呆としては、甲状腺機能低下症や副腎機能低下症などの内分泌疾患、ビタミンB1やニコチン酸など各種ビタミン欠乏症などがあります.

 これら内科的疾患に伴う痴呆や脳腫瘍あるいは感染症などでみられる痴呆は、器質的変化を来す前に治療することにより痴呆自体も治すことができますので、早期発見と適切な治療が重要ですので痴呆と思われてもあきらめずにすぐ専門医を受診するようにしてください.

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