不眠について

2002.08.14 放送より

 少し前に聴取者の方からのご質問で睡眠時無呼吸症候群を取り上げましたが、今年は寝苦しい夜も多かったので、今回は不眠について取り上げます.

 そもそも夜なかなか寝つかれない、夜中に目が覚めてそのあと眠れない、朝早く目が覚めてしまう、といった状態が不眠ですが、不眠で悩んでおられる方は実に多く、日本人の5人に1人といわれております.そこでまずご注意していただきたいのは、不眠と不眠症とは違うということです.

 例えばうつ病などの精神疾患や動悸をきたすような循環器疾患などの基礎疾患がある場合、治療のためにステロイドホルモンやテオフィリンなど眠れなくなるような薬剤を飲んでいる場合、あるいは夜勤、時差、騒音など明らかに眠れない状況での不眠は不眠症ではありません.不眠症の方はこのような原因がはっきりしないにもかかわらず、眠れないと強く訴えられます.またもう1つ注意していただきたいのは、睡眠時間の問題です.もうだいぶ前の放送で睡眠にはステージがあり1晩のうちに繰り返しているとお話しました.そこから考えて健康のために必要な最低限の睡眠時間は5時間くらいといわれています.

 この最低限必要な睡眠時間がたとえ確保されていても、「眠れない」とご本人が非常に辛く悩まれていたら、不眠症と診断されます.つまりナポレオンのように3時間しか眠っていなくとも、それを苦痛に感じていなければ不眠症とは言いません.このように主観が非常に強いものですから、不眠症は神経症(ノイローゼ)的な不眠と考えられます.

 それでは不眠を症状別に分けてご説明いたします.

 まず眠れるまでに1時間以上かかるという入眠障害があります.これは寝つきの悪いタイプの睡眠障害で、比較的若い人(40歳前後)に多く、不眠症の人にはあまりみられません.治療法としてはまず眠りを妨げる環境や基礎疾患(例えばかゆみや咳などがあればこれを抑える)を改善することです.当たり前のことですが夜寝る前のコーヒーやお茶などは控えるようにします.それでも眠れないときは睡眠薬を使用しますが、この場合、作用時間の短い超短時間型睡眠導入剤を用います.

 次に、熟眠障害ですが、これは夜中に何度も起きてしまい、眠った気になれず睡眠不足を訴えられます.中年から老年期に多く、またうつ病などでもみられます.治療法としては、やはりまず環境や基礎疾患(前立腺肥大などによる夜間頻尿など)の改善を行います.それでもだめな時には、短時間型あるいは中間型の睡眠導入剤を使用します.またアルコールは入眠には有効でも摂取量が多くなると睡眠を妨げるので注意が必要です.それから途中覚醒ですが、これは夜中や早朝に目が覚めてしまいその後眠れなくなるタイプであります.これは神経症性のもの即ち不眠症でみられることが多いほか、うつ病や高齢者でもみられます.この場合も環境や基礎疾患の改善に加えて短時間型あるいは中間型の睡眠導入剤が用いられます.

 以上ご説明してきましたように、いずれのタイプの不眠でも治療の原則として、まずは環境や生活リズムの改善が挙げられますので、次にその方法をいくつかお話いたします.すなわち、たとえ前の夜にあまり眠れなかったとしても起床時間や就寝時間を一定に規則正しい生活リズムを身につけること、いくら眠くとも昼寝をしないこと、アルコールやコーヒーなどの刺激物は過剰に摂らないこと、逆に脳をリラックスさせるカルシウム、ビタミンB群、ビタミンC、亜鉛、マグネシウムなどの多い食品を摂ること、自分にあった運動をできれば夕方にすること、就寝前に音楽などでリラックスして眠くなってから床につくこと、寝室は清潔で快適なものとし、カーテンは遮光や遮音効果の高い厚手のものに変えることなどがお勧めできます.

 それでもどうしても眠れない時には睡眠薬の出番になるわけですが、睡眠薬の使用は長期に及ぶのでいろいろ心配されると思いますので、睡眠薬につきまして簡単にご説明いたします.現在主に用いられている睡眠薬、ベンゾジアゼピン系睡眠導入剤といい、睡眠を引き起こすGABAという神経伝達物質の受容体を刺激する作用があります.先ほど申しましたように作用時間の違いにより使用目的別にさらに細かくたくさんの種類がありますが、いずれも以前に用いられてきましたバルビツール系と違って呼吸抑制という副作用も少なく非常に安全であります.また毎日服用していても効きにくくなること(耐性形成)は少ないようですし、ぼけの原因となる心配もありません.ただし、アルコールと一緒にのむことは、一過性の健忘(後で思い出せない、物忘れ)をきたすことがありますのでよくありません.

 さらに急に睡眠薬をやめると「反跳性(はんちょうせい)不眠」といって、それ以前より不眠が強くなることもありますが、医師の指導により少しずつ減らしていけば大丈夫です.

ビタミンB群:

ビタミンB1:
  玄米胚芽、小麦胚芽、のリ、大豆、ごま、しいたけなど。


ビタミンB2:
  わかめ、チーズ、のリ、レバー、干ししいたけ、緑茶、卵、酵母、ヨーグルトなど。


ビタミンB3:
  卵、ピーナッツ、いちじく、プルーン、レバーなど。


ビタミンB5:
  レバー、酵母、ピーナッツ、緑黄色野菜など。


ビタミンB6:
  ビール酵母、レバー、玄米胚芽、大豆など。


ビタミンB12:
  牛乳、卵、レバーなど。


ビタミンC:
  アセロラ・ピーマン・パセリ・緑茶・ブロッコリー・ほうれん草・のリ・レモン・みかん・ゆずなど。


カルシウム:
  大豆・ひじき・枝豆・ごま・ちめんじゃこ・いわし・牛乳・干しえび・煮干・いわしの丸干し・乾燥ひじき・高野豆腐・チーズなど。


マグネシウム:
  ごま・ピーナッツ・玄米・バナナ・あんず・りんご・豆腐など。


亜鉛:
  カキなどの貝類・数の子・たらこ・ナッツ類など。

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