全身性エリテマトーデス(SLE)について

2006.03.12 放送より

 前回、膠原病である関節リウマチおよび悪性関節リウマチについてお話ししましたので、今日は膠原病の中でも特に有名な全身性エリテマトーデス(SLE)について取り上げたいと思います。

 SLEはsystemic lupus erythematosusという言葉の頭文字をとって略した言葉で、それぞれsystemicとは全身性という意味、lupusとはラテン語でオオカミの意味、erythematosusとは紅斑の意味で、皮膚にオオカミに咬まれたような赤い発疹(紅斑)が出来るため名付けられました。自己免疫疾患である膠原病の代表的疾患で、すべての年齢の人に発症しますが、20歳から40歳くらいの若い女性に好発(男女比は1対9)し、全国に4万人以上の患者さんがいるといわれています。

 発症の原因はよく分かっておらず、この病気の母親からこの病気の子供の生まれる確率は一般よりも少し高いようですが、遺伝子が同じである一卵性双生児でも2人がそろってこの病気にかかる割合は30%位しかありませんので、遺伝の要素よりも環境の要素の影響の方が大きいかもしれません。とにかく病因は不明ですが、自己免疫疾患ですから自分で自分の体を攻撃するアレルギーのような状態が体のなかで起こっております。すなわち免疫とは本来病気を免れるために外から侵入した細菌やウイルスをやっつけるために働くはずなのですが、このような病気の患者さんではリンパ球の反応の違いなど体質的な異常により自分で自分の体を異物と見なして攻撃してしまうような自己抗体を作ってしまいます。例えば自己免疫疾患で最も多くこの前お話しした関節リウマチでは自己の関節の滑膜に対する抗体が見られますし、橋本病という慢性甲状腺炎をきたす病気では、甲状腺に対する自己抗体が認められます。このような臓器特異的な自己免疫疾患に対してSLEは、皮膚や関節に加えて腎臓、肺、心臓など各種臓器にも症状がみられ、すなわち全身性に障害をきたす疾患です。

この病気は全身の細胞にあるDNAに対する抗体(抗DNA抗体)が作られます。それが抗原である自分の細胞の核にあるDNAと結合して免疫複合体というものを形成して全身の組織に沈着し、さらには補体の活性化なども起こって炎症が惹起されるというわけです。この病気の発症の誘因としては、紫外線に当たること、風邪などのウイルス疾患に罹患すること、外傷、外科手術、妊娠や出産、ある種の薬剤などが知られており、これらによる刺激が自分の免疫系に刺激や変化を与えていることが予想されます。

 次に症状ですが、まず全身症状として全身倦怠感、易疲労感、発熱などがあり、これらが先行してみられることが多いようです。そしてこの病気に特徴的な皮膚症状として頬から鼻根部にかけて見られる蝶形紅斑や顔、耳介、頭部、関節背面などに見られる円板状皮疹(ディスコイド疹)と光線過敏性があります。また口腔や鼻咽腔に無痛性の潰瘍が見られることもあります。それから約90%の人に骨破壊を伴わない関節炎や筋肉痛もみられます。さらに大切な臓器の障害としては、腎臓では蛋白尿と約半数に糸球体腎炎(ループス腎炎)が、神経系ではけいれん、頭痛、脳血管障害、精神障害(うつ、妄想、人格障害など)などが見られCNSループスといわれ重篤です。

 さらに肺では、間質性肺炎や胸膜炎が、心臓では心外膜炎や心筋炎それに心内膜炎から弁膜障害もきたすことがあります。また血栓性静脈炎を起こすこともあります。この他、消化器症状としては腸間膜血栓症や腹膜炎が、造血器症状として溶血性貧血や白血球減少、血小板減少が見られます。検査所見では、抗核抗体や抗2本鎖DNA抗体、抗Sm抗体などの自己抗体が陽性になったり、抗カルジオリピン抗体やループス抗凝固因子などが陽性になったり(=抗リン脂質症候群といって血栓症が多発したり逆に出血傾向が見られたりする)、あるいは梅毒血清反応の生物学的偽陽性が見られることがあります。

以上のように症状は全身にわたり非常に多彩ですが、診断としてはアメリカリウマチ学会による診断基準では上記の皮疹、光線過敏症、口腔の潰瘍、関節炎、胸膜炎や心膜炎、腎障害、神経障害、貧血、自己抗体の出現など11項目のうち4つ以上を満たせば全身性エリテマトーデスとするとしています。

 それから治療ですが、この病気の本体であります免疫異常を是正するためには、副作用がいろいろ有っても副腎皮質ステロイドホルモンの投与が必要です。ステロイドは中等量から大量使用し、しばらく維持した後に漸減してゆきます。ステロイドが効きにくい人や重篤な人に対してはステロイドパルス療法を行うこともあります。またステロイドに抵抗する例やステロイドが副作用のため使用しづらい例ではアザチオプリンやエンドキサンといった免疫抑制剤を併用することもあります。本症は緩解と増悪を繰り返し、慢性の経過をとることが多いのですが、最近では治療法の進歩により5年生存率も95%以上と昔に比べて随分改善されてきております。

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