慢性疲労症候群について

2002.02.17 放送より

 今回は、強烈な疲労と倦怠感を症状とした病気についてお話いたします.その病気は慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome)といいまして、本当は随分昔からあったようなのですが、単なる怠け病として扱われていたようで、注目されだしたのは比較的新しく、米国で1988年に発表されてからのことです.

 まず慢性の疲労とはどのようなものかといいますと、疲労が自覚的に半年以上も続くような状態と定義されております.この場合、疲労には単なる疲れで少し休めば良くなる程度のものから、激しい倦怠感のため仕事や社会生活が出来ない、あるいはもっとひどくて身の回りのことが出来ずに日常生活に介助がいるほど重いものまであります.慢性疲労症候群の疲労の特徴は、生活が著しく損なわれるような強い疲労であり、これが少なくとも6ヶ月間のうち約50%以上持続することです.

 この強い疲労のため短期間の休養では回復できず、月に何日も仕事を休んだり、家事も出来なくなって寝ていなければならなくなります.このような激しい慢性的な疲労に加えて、次のような症状が同じく6ヶ月以上続きます.すなわち、1)微熱(37.2~38.3℃)、2)咽頭痛、3)頚部あるいは腋窩のリンパ節腫脹、4)原因不明の筋力低下、5)筋肉痛ないし不快感、6)軽い労作後に1日以上続く全身倦怠感、7)頭痛、8)腫脹や発赤を伴わない移動性の関節炎、9)羞明・一過性暗点・健忘・興奮・混迷・思考力低下・集中力低下・うつ状態などの精神症状がいずれ1つある、10)睡眠異常(過眠・不眠)、11)以上の症状が発症時に数時間から数日のうちに発現する、などですが、これら11の項目のうち少なくとも8つ以上が該当している必要があります.

 そして他に疲労や倦怠感をきたすような身体的な原因(糖尿病、悪性腫瘍、膠原病、甲状腺や副腎といった内分泌疾患あるいは筋肉疾患など)やうつ病など精神的疾患が無ければ、慢性疲労症候群と診断されることになります.このように明確な診断基準も設けられておりますが、有病率は人口10万人当たり7人から38人と報告者によって差があります.そして80%近くは女性(それも高学歴でよく頑張る人)だといわれております.これまではノイローゼ、うつ病、自律神経失調症、あるいはひどい場合には仮病との診断を受けて理解されずに仕事を失った方もおられるかもしれず、その気になって調べると以外に多いかも分かりません.

 次ぎに、本症候群の病因ですが、残念ながら未だによく分かっておりません.EBウイルス、ヘルペスウイルス、HTLVウイルスなどの慢性的な持続感染が原因と考えられたり、免疫グロブリンやインターフェロンガンマの産生低下、リンパ球増殖能の低下などの免疫反応の低下が原因とする説もあります.一方、逆に患者さんの約65%にアレルギー疾患の罹患歴があり、アレルギー反応を病因とする説もあります.さらに心身症として考え、心理的因子が重要であるとする人もいるようです.それから最近、人間の細胞内でエネルギーを産生している器官であるミトコンドリアの中に存在しているアシルカルニチンという物質の減少が報告され、エネルギー産生障害説も注目されてきております.このように多方面から研究されておりますので、原因は1つかどうか分かりませんが、いずれ明らかになるものと思われます.

 それから治療でありますが、病因が不明であるため、根本的な治療法はありません.抗ウイルス剤、副腎皮質ステロイドホルモン、大量の免疫グロブリン、インターフェロンなどの投与も行われましたが、大半は有効性が認められず、結論は出ておりません.現在のところ、薬物療法で最も効果を上げているのは、抗うつ剤の投与であり、約80%に有効であったという報告もあります.さらに心理療法が有効な人もいることより、一番の治療法は、まずゆっくり休養することといわれております.思い切って精査を兼ねて入院などして休むとよいと思います.次ぎに対症療法(抗うつ剤、解熱鎮痛薬など)で症状を緩和させ、周囲の人の理解と協力を得て、無理して頑張ろうとせず、焦らず気長に時間をかけて治療を続けることも大切です.

 今回は、慢性疲労症候群を取りあげましたが、疲労というものはなかなか他人からは分かりづらいため、怠け病のように思われて1人で悩んでいる方も多いかもしれません.疲労を症状とする状態の中には、本症候群は勿論のこと、他にもさまざまな身体的あるいは精神的疾患が潜んでいる可能性がありますので、内科、神経内科あるいは心療内科いずれでもかまいませんので、思い切って受診されることをぜひお勧めいたします.

戻る

タグ:

ページの上部へ