摂食障害について

2006.01.08 放送より

 明日は成人式ということで、若い人に多くしかも近年増加傾向にある病気、その代表である摂食障害(神経性無食症と神経性大食症)についてお話しします。

 そもそも食欲は脳の視床下部にある満腹中枢と摂食中枢によってコントロールされています。このうち満腹中枢は視床下部の腹内側にあり、興奮すると摂食を中止させます。一方、摂食中枢は視床下部の外側にあり、興奮すると摂食を誘発させます。これらの中枢の興奮は、胃や腸、肝臓などの内臓の化学受容器や機械受容器から送られてくる神経性情報と各種生化学的な刺激である液性情報などによって調節されています。

このうち神経性情報は、主に自律神経の中の副交感神経系に属する迷走神経を介していますが、味覚、嗅覚、視覚といった体性感覚や扁桃体とか海馬といった情動に関係する大脳辺縁系も食欲の調節に関係しています。一方、液性情報としては、血液や脳脊髄液に含まれるブドウ糖などの代謝物質、各種神経伝達物質、各種ホルモン、各種サイトカインなどといった物質の濃度などがあります。食欲はこのようなさまざまで複雑な調節機構によって調節されているわけです。

 さて今日お話しする摂食障害は、若い人、それも特に10代から20代の女性に多いと言われています。そして人口10万人当たりの受診者数は約20人で、そのうちの90%以上が女性だそうです。かつてはこの病気は神経性食思不振症と呼ばれていたのですが、それはこの病気が日本ではちょうどTVが普及し始めた1960年代から報告され増えてきており、その当時はどんどん痩せてゆく神経性無食症が多かったためで、それが80年代以降になりますとコンビニの普及に伴いまして神経性大食症もよく見られるようになり、両者を併せて摂食障害と呼ぶようになっています。

 それでは症状についてお話しいたします。まずは神経性無食症ですが、「体重が増えるのが嫌という気持ちが強く、標準体重(身長(m)×身長×22)の80%以下になっていても体重が増えることを恐れてしまう。そしてそれだけ極端に痩せていても自分が痩せているとは認めない。生理が始まっている女性の場合、生理が止まってしまう。」などが見られます。これらの症状の背景には、自分の体の重さや体型に対する感じ方や考え方に変調をきたしていることが考えられます。体重が標準体重の20%以上減少するとホルモンなどへの影響が出ます。そして30%以上減少(身長160cmで39Kg)すると心臓や肝臓など重要な臓器に障害が出始めます。

 このようにならないうちに早めに見つけて早めに治療する方がよいわけですが、何分にも本人に病識がありませんので、周りの人が見て、「短期間に著明に体重が減少した。痩せているのにまだダイエットをしている。ダイエットの目標に達しているのにまた新たに目標を立て直して痩せていることに満足しない、あるいは痩せていると認めない。食べ物に異常な興味を持って食べ物の重さを測りながら食べたり、小さく切り刻んで食べたりする。」などがみられたら注意される方がよいように思います。

 次に神経性大食症ですが、これは無食症から進展する場合といきなりこの形で発症する場合があります。

その症状ですが、「普通の人が食べるより明らかに多い量を一度に食べる。食べないではいられないあるいは食べることを留めることが出来ないという強い衝動がある。体重が増えないように不適切な代償行為として自己誘発性の嘔吐、下剤、利尿剤、浣腸などの使用、絶食などにより痩せようとする。無茶食いと不適切な代償行動が同時に平均して週2回、3ヶ月以上続いている。体型や体重により自己評価を過剰に下している。」などであります。無食症よりもより複雑な心理的背景があるように思います。そして周囲から見て「短時間に大量の食べ物をとって無茶食いをしている。一気に大量に食べているが体重が増加しない。隠れ食いをしている。食後に嘔吐するためにトイレなどに長時間はいっている。」などがあれば要注意です。

 さてこれらの状態の治療ですが、摂食障害の人の病前性格としては完璧主義者、人に気を遣いすぎてストレスをためやすい、きまじめで頑張り屋などの傾向が見られます。発症のきっかけはさまざまですが、学業やスポーツなどの成績不振、職場での悩み、友人関係の悩み、失恋などにより自信の喪失や孤独感が影響することが多いようです。それで摂食障害の治療には心療内科に受診するなどして心身両面からのケアが必要になります。体の回復は目標の体重を設定してそれをクリアするようにすることで、その為には入院による行動の制限や点滴などによる強制栄養も必要なことがあります。心の回復には、本人だけでなく本人を孤立させないように周囲である家族も含めてのメンタルケアが必要となります。

 以上、今日は成人の日にちなんで若い人に多い摂食障害についてお話ししました。この病気は周りの人が気付いてあげる必要のある病気なので該当する恐れがないか充分に気につけて上げてください。

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