脳の機能について

2005.04.12 放送より

 新しい年度になり新しくスタートを切られた方も多いことと思います.今日はそこで物事を考えたり何か行動を起こすに当たって最も大切であり精神活動の源とも言うべき脳の機能についてお話しいたします.

 脳は大脳,脳幹,小脳で構成されており,脊髄と共に中枢神経を構成しています.脊髄が末梢からの刺激を脳に伝えたり,逆に脳からの命令を末梢に伝える中継ぎをしたりあるいは時に反射中枢として働いたりして支店のような働きをしているのに対して,脳は末梢からの刺激に対して,最上位の中枢すなわち本店として働き,いろいろな刺激を分析したり統合します.そうして得られた情報に基づいて思考,情動,記憶,行動の命令決定などいろいろなことを行っています.脳は日本人の成人男性では重さが約1400gと実質臓器としては肝臓に次いで重いのですが,それでも体重の約2.5%にすぎません.また脳の神経細胞の数は大脳で140億個といわれておりますが,人の体細胞の数は60兆個といわれておりこれもわずか0.02%にしかすぎないわけです.それに対して脳は心臓から拍出される血液のうち15%ももらっており,1日に消費する酸素も120Lと肺が摂取する酸素の約20%を消費しています.このことからも脳が如何に大事な働きを担っているか分かると思います.

 それではまず大脳から説明してゆきます.大脳は左右の大脳半球からできております.よく左脳は言語的で,右脳は非言語的,空間的,映像的であるといわれていますが,この2つの大脳半球は中央で脳梁という神経線維によって結ばれております.左右の大脳半球はさらにそれぞれ外側に面して前頭葉,頭頂葉,側頭葉,後頭葉と,内側に面して辺縁葉という部分に分けられます.

 前頭葉は運動野と呼ばれる運動神経の源を含みます.有名なので皆様ご存じとは思いますが,この運動中枢から脊髄へと下降する線維は延髄で交差しますので脳は左右逆の手足を支配しております.このほか優位半球にはBroca中枢という言語の中枢も含みます.Broca中枢が障害されると言葉は理解できてもしゃべれないという状態になります.さらに前頭葉連合野という部分で各種刺激に反応して行動を起こします.すなわち興味のあるものに目や顔を向けたり気分や感情に合わせて顔の表情を変えるといった簡単なことから感覚や記憶を元に考えて問題を解決したりいろいろな行動のプランを立てそのプランに基づき複雑な運動を遂行するといった知的な活動にも大きく関わっています.次に頭頂葉には感覚野という体の各部位からの感覚を最終的に受け取る最上位の感覚中枢があり,ものの形や手触り,重さなど総合的に感じることが出来ます.

 また頭頂葉ではこれらの情報と後頭葉からの視覚情報を分析して対象と自分の位置関係を認識して方向感覚をつかみ体の動きをコントロールしたり,空間に対する記憶を保存したりします.次に側頭葉ですが,ここには聴覚野があり聴覚の情報を処理します.またWernicke中枢とよばれる感覚性の言語中枢があり,ここが障害されると言語の意味が理解できなくなり話が通じなくなります.次に後頭葉ですが,ここには視覚野があり視覚情報を処理しています.それから辺縁葉ですが,ここは側頭葉の内側に位置し,帯状回,梨状葉,後眼窩回,海馬などが含まれており,嗅覚,情動,記憶,本能,自律神経などに関与していると言われています.

 次に脳幹ですが,大脳の下部で頭蓋内の奥深くに位置し,これには間脳,中脳,橋,延髄が含まれています.間脳はさらに体から登ってきた感覚や視覚の中継を行っている視床と自律神経の1番上位の中枢であり各種ホルモンを分泌する脳下垂体の支配もしている視床下部に分けられます.脳幹には12対の脳神経が存在し,中脳では視覚,橋では聴覚といった特殊化した感覚が入力されるほか頭部・頚部の運動と感覚を司っています.


さらに自律神経に属する神経も含まれ,このうち延髄にある迷走神経は肺や心臓にまで枝を送って呼吸や循環をコントロールしたり,胃や腸に枝を送って胃腸の運動をコントロールするなど生命の維持に大いに関係しております.脳幹にはまた脊髄と脳の連絡路として脳幹毛様賦活体という意識を維持するのに大切な部分が存在しています.

 最後に小脳ですが,大脳の下,脳幹の後ろに位置し,脳幹を通じて脊髄や大脳と情報をやりとりし,運動神経を補佐して体の動きを滑らかかつ正確にし,その運動のスキルを記憶するといわれています.また内耳や脊髄の情報を元に体の平衡の保持や筋緊張のコントロールに関与しています.

 脳の神経細胞には寿命があり,20歳以後,1日あたり10万個ずつ減り続け,1年で3650万個,重量にして約4g減少します.90歳ではもともとの140億個から110億個くらいに正常でも減ってしまいます.一度死滅したら再生はしない一生ものですから,酸素不足やアルコールなどで余分に減らさないように大事にしてゆくことが必要だと思います.

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