腰痛について(2)

2003.11.17 放送より

 お葉書を拝見させていただきました.この方は45歳の男性で7年前に交通事故で頚椎捻挫になり、3ヶ月間の治療を受けられた既往があるようですがそれは完治しており、その当時57kgであった体重が現在では72kgになり、むしろ最近では腰痛でリハビリ中とのことです.そしてCTスキャナでは脊髄が痛んでいるといわれ、早く治すには手術をしたらよいかとのご相談です.実は腰痛の相談は以前にもこの放送でありました.その時も40歳代の男性でその方は測量関係のお仕事をされていました.やはり腰痛でお悩みの方は多いようです.今日は腰痛について復習も兼ねてもう1度簡単に説明しながらこの方の場合を考えてみたいと思います.

 さて腰痛といいましてもこの前に取り上げました筋肉性腰痛症すなわちぎっくり腰を始め、腰椎椎間板ヘルニア(いわゆるヘルニア)、腰椎分離症、腰椎すべり症、変形性腰椎症、腰部脊柱管狭窄症、腰椎圧迫骨折など数多くの疾患が存在いたします.これらのうち前回の筋膜性腰痛症は、腰椎や腰椎周囲の組織すなわち腰椎を支えるいろいろな筋肉やその筋膜などが急激な外力のために損傷したり、あるいは加齢性の変化のため筋力が低下してきてそれまで行ってきた日常生活の活動維持に負担がかかり、その結果、非特異的な腰痛をきたしているものです.今回お葉書を下さいました方の腰痛の特徴は、徐々に生じた慢性のものであることと脊髄に障害が及んでいることの2点しか明らかではありませんが、筋肉性腰痛症では脊髄障害は起こしにくいと思われますのでこの疾患は除外して良いと思います.

 次に腰椎椎間板ヘルニアですが、これは背骨(椎体)と背骨の間にある軟骨で座布団のような役目をしている椎間板が、加齢により徐々に弾力を失いつぶれたり、重いものを持つなどして予想以上に背骨に力がかかることによりつぶれてしまい、脊髄や脊髄から髭根のように出ている神経根を圧迫して腰痛とともに腰から足先にかけてのしびれや痛み、さらには足の筋力低下を引き起こします.


 椎間板は20歳を過ぎると次第に衰えてくるため腰椎椎間板ヘルニアは20歳代から30歳代で運転、事務、営業などの軽作業をしている方によくみられます.また部位的には腰椎は5つありさらにその下は仙椎へとつながっているのですが、その下部の方、すなわち4番目と5番目の腰椎の間や5番目の腰椎と1番目の仙椎の間に起こりやすいといわれています.この方の場合、体重が急激に増えたことで腰に負担がかかるようになったことや年齢的に椎間板に負担がかかってくる年代でもあるので椎間板ヘルニアに罹患している可能性は考えられます.前傾姿勢や椅子に腰掛けると症状が増悪します.脊髄の圧迫症状が強ければ手術の適応になると思います.

 次に腰椎分離症ですが、これは小児期からの繰り返されたひねり、強い前屈や背屈など腰の激しい運動の結果、腰椎の椎弓という後ろの部分が疲労骨折により折れて脊柱が不安定になり同じ姿勢や同じ動作を続けるのがきつくなったり、激しい運動中に急に力が抜けたりする病気です.激しい運動をする若いスポーツマンに多いとされ、この方の場合は当てはまらないように思います.続いて腰椎すべり症ですが、これは脊椎の分離や椎間板の加齢による変性などで腰椎と腰椎の並びが悪くなり、1つの腰椎が前方にずれてしまった状態を言います.ずっと立っていると腰痛をきたしますが、単なるすべり症であればこの方のような激しい痛みは少ないと思います.

 次に変形性腰椎症ですが、これも加齢により腰椎の骨や椎間板が変形して腰痛をきたすもので、軽度であれば腰痛のみで脊髄圧迫まできたすことは少ないかと思います.

 続いて腰部脊柱管狭窄症ですが、脊柱管とは背骨の中で脊髄の入っている部分をいい、この病気は加齢性の変化による椎間板や椎体などの変性や先ほどのすべり症などにより脊椎下部の脊柱管が狭くなり、脊髄などの神経が圧迫され腰痛や神経症状をきたします.ずっと立って腰が伸びた状態を続けていたりすると痛みが強くなります.この方の場合、可能性があり、余り程度がひどいと手術の適応になると思います.


 それから腰椎圧迫骨折は骨粗鬆症や強い外力により腰椎の椎体がつぶれてしまった状態で、背中や腰に痛みが現れます.この方の場合、年齢と性別からして骨粗鬆症はなさそうで、また交通事故による外傷で起こっているならその時に見つかっているので考えにくいと思います.

 以上ですが、この方の場合、どの様なときに腰痛が増悪するか分からず、椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症の可能性が残りましたが、いずれにしましても脊髄の圧迫症状の程度によって手術の適応が決まると思いますので、やはり今お係りの整形外科でお聞き下さいますようよろしくお願いします.

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