神経痛について

2012.02.12 放送より

 今日は神経内科領域の中で寒い時期に多い病気である神経痛についてお話しいたします.そもそも神経痛は特定の末梢神経の領域に起こる痛みの総称のことであり,起こる原因はさまざまであり,原因不明の突発性のものから器質的な原因によるものとして腫瘍,動脈瘤,ヘルニアなどによる圧迫,外傷,帯状疱疹のような感染症,多発性硬化症のような神経疾患などによるものがあります.その痛みの特徴は,針で刺されるような,あるいは焼け付くようななどと表現される強くて激しい痛みが突発的に起こります.発作的なものであり,持続時間は数秒から数分と短いことが多いようです.またその痛む場所は障害されている末梢神経によって支配されている特定の部位に限局しており,押さえたり触ったりすると痛みを誘発する圧痛点と呼ばれる部位を有することも特徴の1つです.

 それでは具体的にいくつかの神経痛につきお話ししていきます.まずは三叉神経痛ですが,これは12ある脳神経の中の5番目の脳神経である三叉神経に起こる神経痛です.よく顔面神経痛と呼ばれることがありますが,顔面神経は主に顔面の表情筋の運動神経であり,三叉神経の方が頭の前半分から顔面にかけての皮膚の感覚を脳に伝えておりますので正しくは三叉神経痛であります.

 そしてこの三叉神経が障害された結果,顔の片側,特に鼻の横や頬の部分,顎などにキリで突かれるような電撃的な耐え難い激しい痛みが突然数秒からせいぜい1-2分の間ですが見られます.そしてその発作が繰り返し見られることから痛みのために何も出来なくなることもあります.またこの痛みは,歯磨き,食事,洗顔や顔に冷たい風が当たるなどによって誘発されることがあるほか,眉と眼の間,鼻の横,唇と顎の間など三叉神経が頭蓋内から骨の隙間を貫いて顔面の皮膚に出てくる部位(三叉神経の圧痛点)を押さえることによって誘発することが出来ます.

 原因にはいろいろありますが,突発的なものも多く,この場合は50歳前後の女性にやや多い傾向があり,原因がほかにあるものとしては帯状疱疹によるもの,脳内の動脈瘤や脳腫瘍などによる圧迫で起こるもの,それから若い人の場合,多発性硬化症の症状として起こることがあります.

 治療については原因のあるものでは,まずはそれぞれの原因についての治療を行います.また痛みに対する対症的な治療といたしましては,神経ブロックのほか薬物の内服があります.この内服薬ですが,昔はカルバマゼピンというてんかんの薬と抗うつ薬を併用することが多かったのですが,最近,プレガバリン(リリカ)というかなり効果のある薬が利用できるようになっております.また脳神経領域の神経痛では,頻度はかなり低いのですが舌咽神経痛というものもあります.これは9番目の脳神経であり,口の中で喉の奥や舌の付け根などの感覚を司っている舌咽神経の神経痛であり,従いまして咀嚼や嚥下に伴い口の中に激しい痛みが起こるという悲惨な神経痛であります.こちらは中年男性に起こることが多いと言われています.

 それでは次に肋間神経痛についてお話しいたします.これは勿論,肋間神経の障害によって起こる神経痛でありますが,肋間神経は左右合わせて12対あり,それぞれ脊髄から末梢神経となって背骨(胸椎)と背骨の隙間を出て背中から胸に向かって肋骨の裏側を肋骨に沿ってぐるりと走りながら,時々,皮膚の表面へと顔を出して胸壁や腹壁の皮膚の感覚を支配しております.従いましてこの神経の障害による神経痛の痛みは,この神経が皮膚に出てくる部分(=圧痛点)を押さえることにより誘発され,また痛みは帯状に伝わります.原因としては,不自然な姿勢を取ったり,運動不足や疲労などにより神経が骨や筋肉に締め付けられて突然起こる突発性のものや,有名な帯状疱疹によるもの,胸椎のヘルニアや圧迫骨折による神経への圧迫などでも起こります.

 それから坐骨神経痛ですが,これは脊髄が腰椎下部(L4,5)から仙椎(S1-3)にかけての隙間から出て骨盤内を抜け大腿後面を通って下肢に分布する末梢神経である坐骨神経の障害によって起こります.この神経は末梢神経の中でも最も太くて長い神経であり,この障害により臀部から大腿後面,下腿外側,足背までズキンと響くような痛みやしびれ感がみられます.この障害かどうかの診断には,Lasegue徴候と言って仰臥位で足をまっすぐ伸ばしたまま挙上することにより痛みが出現・増強するかどうかの試験が有用であります.この障害は,腰椎椎間板ヘルニアや変形性腰椎症,腰部脊柱管狭窄症,骨盤内腫瘍などの疾患のほか,仕事・運動のストレスなどにより骨盤の中の梨状筋という筋肉によってこの神経が圧迫されて起こったりするほか,帯状疱疹によって起こることもあります.

 以上,本日は神経痛につきましてお話ししましたが,これらはいずれも症候名であり,治療には何か基礎疾患があるかどうかを調べてその治療を行う必要がありますので専門医にぜひご相談下さい.

 

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