74歳女性に見られた足の裏の違和感について

2005.10.26 放送より

 お手紙拝見いたしました。この方は74歳の女性で、足の裏に薄い紙がひっついているような違和感を訴えられ、それは足の裏を触っても何もないけれど歩くときに気になって仕方がないとのことです。そしてこの方のお友達にもそのような症状をお持ち方がいて、やはりスポンジの上を歩いているようだとか小さな石が足の裏にくっついていると訴えられており、どこの科で診てもらえば良くなるのかというご質問です。

 まずこの方の症状ですが文面から推察いたしますと、触っていることは分かるようですが、それを変に感じてしまうようでこれを錯感覚といいます。そして恐らく両足の裏の感覚がほぼ左右差なくおかしくなっているのだと思います。そして歩いたりする足の力はとくに低下していないように思われます。足の裏というのは体の中で脊髄から一番遠く離れたところであり、ここが左右対称性に障害されるのは、多発神経障害にみられるパターンです。すなわち多発神経障害というのは、脊髄から出た末梢神経が末梢へと枝を伸ばしていく途中で色々な原因で障害されて起こります。

 末梢神経の走向途中にどこで障害されてもそこから先は神経の刺激が伝わらなくなりますから、神経が長く走っている部分ほど途中で障害されて機能障害を起こす確率が高くなります。この結果、四肢末端の部分ほど障害が強くなり、それも手より足の方が長いので足先が一番強く障害されることになります。そして感覚神経の場合は、手袋靴下型の感覚障害をきたします。また運動神経の場合も同様で手足の指先の筋力低下から発症します。そして進行と共に障害範囲は四肢の末端から体幹へと上行してゆきます。ご質問の方の場合は、恐らくまだ軽症であり、足の裏だけの感覚障害に留まっているのではないかと思われます。

 それではどのような原因で多発神経障害が起こるかについてお話しいたします。実は多発神経障害にも急性型と慢性型があります。急性型を引き起こすものとしては、抗けいれん剤、抗生剤、化学療法剤など各種薬剤の副作用、農薬中毒、鉛や水銀などの重金属による中毒、毒素を産生するジフテリアなどの感染、ギラン・バレー症候群など自己免疫反応によるものなどがあります。

 この中で薬剤によるものは、化学療法剤のビンクリスチンなどのように数回使っただけですぐみられるものもあれば、フェニトインなどの抗てんかん剤のように自覚しないままいつの間にかみられていることもありますので、一度何か心当たりの薬剤がないかどうかこの方も調べてみる必要があります。次に慢性型ですが、これを引き起こす原因としては、糖尿病、ビタミン特にB不足、アルコールの過剰摂取、膠原病、肝臓や腎臓の障害、甲状腺機能低下、癌に伴うもの、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎という自己免疫性のものなどがあります。

 それではこれらの中で特にこの方と関係のありそうなものを考えてみますと、頻度的にみて最初に考えられるのが糖尿病です。糖尿病による多発神経障害は、糖尿病の3大合併症の1つですが、他の2つ(腎症、網膜症)と違って罹患後数年とごく早期からみられるのが特徴です。しかもこの方のように足の裏に何かくっついているとか足の裏が熱いなど錯感覚などで発症し、その後、症状的にはあまり進行しません。

勿論進行すると熱いとか痛いなどの感覚が麻痺して足に傷を負い、それがなかなか治らず壊疽をきたして足の切断に至ることもありますのでなるべく早期に治療する必要があります。糖尿病による高血糖が続くと体の中の余分なブドウ糖がソルビトールという物質として蓄積され、それが神経を傷害するとか高血糖により細い血管が障害され、その血流の低下により神経細胞が虚血に陥って発症すると言われていますので、治療としては血糖の厳密なコントロールとソルビトールを取り除くアルドース還元酵素阻害剤や神経の栄養であるビタミンB剤の内服が用いられます。

 それからビタミン不足も考えられます。食べるものが炭水化物に偏っているとビタミンB1やB12の不足を招くこともあります。また(可能性は少ないと思いますが)アルコール性でも足底部の灼熱痛や痛覚過敏などの錯感覚がみられます。それから見逃してはならないものに悪性腫瘍に合併したものがあります。

 悪性腫瘍の種類としては、肺癌や乳癌などが多いようです。そしてこれらは感覚神経優位の障害をきたすことが多く、しかも癌の発見に2年も先行してみられることがあるそうです。悪性腫瘍の中でほかに多発性骨髄腫という病気では腫瘍化した骨髄腫細胞が自分の末梢神経を傷害する免疫グロブリンを作ってしまって発症するという特殊なケースもあります。

 最後にどこの科で診てもらえば良いかです。手足の痺れといえば整形外科が思い浮かぶと思いますが、この方の場合、やはりまず内科におかかりになって色々な病気をチェックしていただき、何か病気が見つかればその病気を治していただくことにより、まだ症状も軽度な事ですし、何とかなるのではないかと思います。

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