むずむず脚症候群について

2010.04.11 放送より

 生活習慣病の増悪因子あるいは交通事故や過労死など突然死にも関連があるとして注目されている睡眠時無呼吸症候群が,絶えず眠い病気であるのに対して,同じく最近注目されておりますが,こちらは逆に不眠の原因の1つになる病気にむずむず脚症候群(英語ではrestless leg syndrome,restless=落ち着きがない,休めない)というものがありますので,今日はこちらについてお話ししたいと思います.

 むずむず脚症候群といいますとまだまだ聞き慣れない方が多いかと思いますが,実はヨーロッパでは17世紀ころから知られていたという報告もあり,欧米では1500万人の患者さんが言われております.そして日本でも1997年以降に知られるようになり,人口の3-4%(全国で130万人から200万人近く)の人にみられることが分かってまいりました.この病気は一般には40歳以降に見られることが多く,年齢とともに有病率が上昇し,男女比は1対1.5とやや女性に多いようです.

 この病気の症状は病名の通り脚の不快感であります.この不快感は言葉で説明しづらいもので脚の中を虫がはいずり回るかのように不快に感じ,「もぞもぞ」,「もじもじ」,「ぴくぴく」,「そわそわ」,「びりびり」,「じんじん」,さらには「ほてる」とか「かゆい」など実にたくさんの表現がなされております.特に夜ベッドや布団で横になる時に現れることが多く,じっとしておられなくなり,不快感から逃れるために脚を動かしたい衝動に駆られます.それで起きあがって歩くなどしないと落ち着けない人もいるようです.また乗り物に乗っている時や映画館などにいて動けないような時に足を動かせないため不快感が高まって足を動かしたい衝動にかられて起こることもあります.このほか就寝前のアルコールやカフェインの摂取が誘因となることもあるようです.大体は基礎疾患のない中年以降の人に起こりますが,血液透析を受けておられる方(約1/3),パーキンソン病,胃切除後,鉄欠乏性貧血,慢性呼吸不全,心不全,糖尿病,甲状腺機能低下症,関節リウマチなど数々の病気で見られるほか,抗うつ剤や向精神薬などを飲んでおられる方や妊娠中特に出産前の2~3ヶ月間の女性(約15%)にもみられようです.

 この病気の原因はいまだ明かにはなっておりませんが,中枢神経の神経伝達物質であるドパミンの機能低下や脳内での鉄分の欠乏などが関係しているのではないかと考えられております.ドパミンは,脳内では神経伝達物質として情報伝達を行っており,鉄分が不足するとその分泌量が減少することも知られております.すなわち何らかの原因で,ドパミンによる脳内の情報伝達がうまくゆかなくなり,体の感覚に異常を感じているのでないかと思われております.そしてこの説を裏付けるかのように,従来,パーキンソン病の薬として発売されていたドパミン受容体刺激薬の1つがこの度,保険適用薬として認定されました.

 それではこの病気の治療ですが,まずは基礎疾患がある場合は,例えば鉄欠乏性貧血に対して鉄剤を投与するなど,それに対する治療を行います.それ以外の対症的な薬物療法として幾つかの薬剤が知られております.これらの治療効果は約80%以上あるとのことですが,その中でもまずは保険適応のとれたドパミン受容体刺激薬のプラミペキソールが第一選択になるかと思います.そしてそれ以外でも従来から用いられてきたクロナゼパムというベンゾジアゼピン系に属する抗けいれん剤があります.さらには各種の抗不安薬や入眠剤,抗けいれん剤,抗うつ剤なども用いられるようです.そしてこれらの治療がうまくいって症状がなくなっても再発しないようある程度長期にわたり薬の内服を続けておいた方が良いように思われます.また逆にこれらの治療により始めはうまくいっていても効果が長続きしないこともあり,この場合には薬剤をいろいろと変えてみることが必要です.一方,薬物療法以外には足裏マッサージやストレッチなどもあるようですが,生活療法として,お茶やコーヒーなどカフェインの入っているものやアルコール類を避けること,規則的な睡眠を(もし出来れば少し遅めに)とるようにすること,寝る直前に脚などを中心にストレッチなど比較的軽い運動をしてから就寝すること,起こり始めたら思い切って起きて足踏みや歩行など軽く運動することなどがあげられます.

 この病気は,名前からして奇妙であり,一見なじみが余りないように思われても,軽い程度のものであれば案外と思い当たられる方も多いかもしれません.また坐骨神経痛,末梢神経疾患,皮膚疾患,うつ病などとも間違われるかも知れません.しかし重くなったり長く続くと仕事に集中できなくなったり,日常の活動が妨げられたりすることもあるようです.きちんと診断がつけば有効な薬剤もあるわけですから,神経内科などで専門的な診察を受けられることをお勧めいたします.

 

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