意識障害について

2010.11.21 放送より

 これまで運動障害や感覚障害についてお話ししてきましたので,今回は意識障害についてお話しいたします.そもそも意識の定義ですが,医学的には脳が五感すなわち視覚,聴覚,味覚,嗅覚,触覚などに対する刺激を認識してそれらの刺激に対して明確な反応を示すことが出来ている状態とされています.そして意識障害とは,脳の働きが鈍ってこれらの刺激をうまく認識できなくなり,外界の刺激に対する反応性や自発的活動性の低下した状態をいいます.

 それでは次に意識を維持している仕組みについてお話しいたします.意識を維持するに当たって最も重要な部位は脳幹であります.脳幹の背側部には手足や顔面からの感覚線維が下から上に向かって通っており.また腹側部には錐体路という手足を動かす運動神経の線維が下行しております.すなわち脳幹は大脳,小脳,脊髄などを連絡している交通の要所のような場所であります.そして脳幹の背側部には,上行性の感覚を伝える線維の1部が網様体と呼ばれるその名の通り網目状に枝分かれしてネットワークを構築している部分に入ってゆき,視床(髄板内核)と脊髄前角へとつながって行きます.このうち視床へとつながって行くものは上行性脳幹網様賦活系と呼ばれ,視床からさら大脳全般に線維を投射しており,感覚情報を脳内各所に伝えていきます.すなわちこの上行性脳幹網様賦活系によって意識が維持(=覚醒)されております.従いましてこの脳幹背側部から視床にかけて障害が起きるか,大脳皮質が広汎に障害されることにより意識障害が起こります.

 それから意識障害の種類や程度についてお話しいたします.まず1般的に用いられている意識障害の種類には,傾眠,昏迷,半昏睡,昏睡,せん妄などがあります.傾眠とはその名の通り少し刺激を与えず放置しておくとすぐ寝入ってしまう状態です.しかし声をかけるなどわずかな刺激ですぐ覚醒することが出来,意識障害としてはもっとも軽い状態です.次に混迷とは意識障害としては軽いのですが,外からの刺激に対してまったく反応できなくなる状態をいいます.

これに対してせん妄は軽度の意識混濁の上に,不安,精神的な興奮,幻覚などが強く現れ,抑制のとれた混乱した言動が見られる状態(いわゆる不穏状態)であり,アルコールの酩酊状態や老人で夜間に起こることが多く,夜間せん妄と呼ばれることもあります.意識障害が最も強くなってかなりの刺激を与えてもわずかに手足を動かすくらいのものを半昏睡,さらにもっとも重い意識障害でどんなに刺激を与えても反応がない状態を昏睡といいます.

しかしこのようなおおざっぱな分類では正確とは言えず,脳血管障害の急性期などでは意識障害をより具体的に評価するためにいろいろなスケールが用いられます.代表的なものを2つあげますと,3-3-9度方式のジャパンコーマスケールとグラスゴーコーマスケールがあります.このうちジャパンコーマスケールについて具体的に説明いたします.

まず3-3-9度とは3桁の1-3の数字からなり,最初の数字は,刺激で覚醒出来ない状態を示し,まったく動かなければ300,顔をしかめたり手を少し動かせれば200,そして手で払い残ける動作が出来れば100となります.すなわち最も重い昏睡状態では300,半昏睡で200ということになります.そして2つめの数字は刺激により覚醒した場合に,痛みと呼びかけをかけ続けてかろうじて開眼すれば30,大声あるいは体を揺すって開眼できれば20,普通に呼びかけて容易に開眼すれば10となります.

すなわち大きな声でやっと開眼する傾眠状態の少し重い状態で20ということになります.そして最後の数字は覚醒している場合で,認知症がないのに自分の名前や生年月日などが言えない時が3,時間や場所が言えない(見当識障害)時が2,意識は大体清明ですが今ひとつはっきりしない時が1となります.なお意識障害と鑑別すべき状態に閉じこめ症候群があります.これは脳幹(橋)の腹側部に大脳脚と呼ばれる錐体路(運動神経の下行性の伝導路)があって,そこが障害されるため意識ははっきりしていて目だけは動きますが,手足が完全に麻痺して声も出なくなる状態です.

それでは意識障害をきたす疾患についてお話しいたします.この原因には大きく分けて2つあります.すなわち1つは大脳や脳幹を直接障害する頭蓋内の病変で,脳血管障害,脳腫瘍,頭部外傷,脳髄膜炎,神経変性疾患,てんかんなどがあります.もう1つは全身性の疾患により脳の機能が障害される場合です.これには循環器や呼吸器疾患による低酸素脳症,糖尿病などでの高血糖や低血糖,各種内分泌疾患や代謝異常に伴う低Na血症,脱水などによる浸透圧の異常,薬物中毒などがあります.

 本日は意識障害についてお話ししましたが,意識障害というと重篤で非常に怖いように聞こえますが,睡眠も生理的な意識障害であると言えます.また軽い場合には,認知症と思われているケースもありますので,少しでもおかしいと思われましたら病院を受診された方が良いと思います.


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