腰痛について

2011.05.22 放送より

 前回は神経難病についてお話ししましたので今日はもっと一般的な症状で多くの人が経験したことのある腰痛についてお話ししたいと思います.

 さて腰の痛みを考えるに当たり腰にはどのような組織があるかということから考えてみ対と思います.腰にはまず腰の骨(腰椎),腰椎の間にありクッションの役目をしている椎間板,腰椎を支えている靱帯や筋肉などがあり,さらに腰椎の中の骨に囲まれた脊柱管という場所には脊髄が通っております.従いまして一言で腰痛と言いましてもこれらのどの部分に障害があって痛みが生じているのかを区別する必要があります.そこでそれらに起こる病気について順番にお話ししていきます.

 まずは腰椎ですが,これは5個存在しております.腰椎に起こる病気で最も有名なのは腰椎圧迫骨折であります.これは重いものを持ち上げたり,尻餅をついたりした時に突然起こりますが,特に骨粗鬆症などが基礎疾患にありますと何も誘因が無くとも起こることがあります.骨の表面にの骨膜には感覚神経が分布しておりますので骨自体で痛みを感じるほか,骨の変形から脊髄にまで圧迫がおよびますと脚のしびれや痛み,脱力などが見られることもあります.圧迫骨折は通常,手術などの必要はなく,安静臥床により良くなります.

また骨折までは起こさなくとも加齢により腰椎や椎間板などに変形をきたして腰痛を起こすものに変形性腰椎症があります.これ以外には腰椎のずれによって腰痛をきたす疾患として腰椎すべり症と腰椎分離症があります.

腰椎すべり症は,脊椎の分離や椎間板の加齢による変性などで腰椎と腰椎の並びが悪くなり,1つの腰椎が前方にずれてしまった状態を言います.ずっと立っていると腰痛をきたすようになります.

それから腰椎分離症は,ひねり,強い前屈や背屈など腰に負担をかける激しい運動が小児期から繰り返された結果,腰椎の椎弓という後ろの突起の部分が疲労骨折を起こして脊柱が不安定になり,同じ姿勢や同じ動作を続けられなくなったり,激しい運動中に急に力が抜けたりする疾患です.激しい運動をするスポーツマンに多いとされています.

このほか腰椎の腫瘍としては原発性の骨腫瘍や転移性のものとしては肺癌,胃癌,腎癌,前立腺癌,乳癌,甲状腺癌と様々な癌によるものがあります.このほか結核性や化膿性脊椎炎などもありますが,今日は時間の関係で省略いたします.

 次に椎間板ですが,これはぎっくり腰の1つである椎間板ヘルニアが有名です.そもそも椎間板は軟骨で出来ており,腰椎と腰椎が直接当たらないようにクッションの役目をしております.またこのおかげで腰椎同士が関節を形成しており,腰を曲げたり伸ばしたり出来るわけです.ここに強い外力が加わりますと椎間板はつぶされて変形し,脊髄や脊髄から出る神経根を圧迫し,激しい痛みをきたします.

 それから腰椎を支えている組織である筋肉や靱帯についてですが,筋肉や筋膜に外力が加わって損傷を起こしますと急性筋肉性腰痛症,これもいわゆるぎっくり腰の1つであります.前屈みになろうとして腰を曲げた時や重いものを持ち上げようとした時,腰をひねった時,それからくしゃみをした時にも起こることがあるそうです.

突然,魔女の1撃とも呼ばれる激痛が走り,腰を動かすことが出来ず,歩くこともままならなくなることがあります.病初期にじっとしていることが大切で,大概は数週間で治りますが,無理をすると慢性化することもあります.また先ほどの椎間板ヘルニアなどとの鑑別も重要となります.

それから靱帯につきましては,棘間・棘上靭帯という部分に損傷が加わってもぎっくり腰の1つになりますし,後縦靭帯骨化症という腰椎椎体の後ろ側で脊髄のすぐ前にある靱帯に骨化が起こりますと脊髄や神経根を圧迫して痛みやしびれが生じることがあります.

 それから脊髄についてですが,これは以前にもお話しいたしましたが,脊髄は中枢神経系の神経であり,脊椎の骨である椎体やその突起などで囲まれた脊柱管という部分を首から腰まで縦に走っております.そして椎間孔という穴を通って神経根という末梢神経の枝がひげ根のように出入りしております.そして脳からの運動神経の命令を筋肉に伝えたり,逆に手足などの感覚の情報を脳に伝えたりしています.

脊髄の痛みには大きく分けて脊髄および神経根の外からの圧迫と脊髄や神経根そのものの病変によるものがあります.すなわち外からの圧迫は先ほども述べました腰椎の変形や椎間板の変性により起こりますが,脊髄そのものの病変では多発性硬化症,脊髄炎,脊髄腫瘍などがあります.痛みの部位が脊髄のレベルに沿ってみられるのが,脊髄で起こる痛みの特徴であります.

 以上,腰痛全般について簡単にお話いたしましたが,腰痛には非常に多くの原因があり,中には怖いものも含まれますので,その鑑別のため1度専門的な診療を受けられることをお勧めいたします.

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