レビー小体型認知症について

2011.08.28 放送より

 前回はアルツハイマー病についてお話いたしましたが,本日は一般的にはまだあまりおなじみではないと思いますが,レビー小体型認知症という日本人が発見した新しい認知症についてお話しいたします.

 レビー小体型認知症あるいはレビー小体病は1976年に小阪憲司氏によって報告されました.レビー小体というのは,元々はドイツ人のフレデリック・レビー氏によって発見され,それまでパーキンソン病の脳に見られる特別な病理変化として知られていました.

すなわちパーキンソン病は,脳の中心部に位置する脳幹の中脳という部分にあるメラニン含有神経細胞が徐々に消失して発症・進行して行く病気でありますが,このメラニン含有神経細胞の細胞内にエオジンという色素で赤く染まる物質(=封入体)が見られます.そしてこのメラニン含有神経細胞はドパミンを作っており,それが線条体というところに運ばれて神経伝達物質として働き,神経から神経へ刺激を伝える役目をしております.

従いましてこの細胞が減少していきますと,ドパミン不足が生じ,その結果,振戦,筋強剛,無動などのいわゆるパーキンソン症状が見られるようになります.このレビー小体が,認知症患者の脳,それも脳幹以外に大脳皮質にびまん性に見られることを小阪氏が発表され,1984年には小阪氏はびまん性レビー小体病と名付けられました.その後,1995年には国際ワークショップでレビー小体型認知症と名付けられ,1996年には診断基準も作られて国際的にも認められるところとなりました.

そして当初は少ないものと思われていましたが,現在では認知症の中で約20%を占めており,脳血管性認知症と並んでアルツハイマー病の次に多い認知症であると分かってきました.そしてその好発年齢は60歳以上と高齢者に多いと言われておりますが,若年発症も見られ,日本全体で約50万人とパーキンソン病の15万人よりも多いと言われてきております.

 その症状は,認知症とパーキンソン症状および自律神経症状などですが,この中で認知症は,アルツハイマー病の症状とはだいぶ異なります.すなわちアルツハイマー病は,物忘れで始まることが多く一般には病識がないことが普通ですが,レビー小体型認知症ではかなり生々しく具体的な幻覚(特に幻視)が目立ちます.そしてそれに基づいた妄想が生じたり,時にうつ症状を呈したり,せん妄や問題行動もしばしば初期から見られます.

それからこれらの認知症の症状は注意力や意識の清明度によって変動することも特徴の1つです.次にパーキンソン症状ですが,これは通常のパーキンソン症状と同じなのですが,認知症から始まって遅れて出てくることもパーキンソン症状に引き続いて認知症が出てくることもあります.ただし,通常は,パーキンソン症状から始まっても1年以内に認知症の方が強くなるとされております.それから自律神経症状としては,著明な起立性低血圧があり,このためしばしば失神発作をきたすこともあるほか,パーキンソン病と同様に頑固な便秘なども見られます.そのほか,REM睡眠行動異常症といって夜間の睡眠で後半には夢を見ることが多いのですが,この時に夢の中での行動通りに手足が実際に動いてしまうという症状もみられるようです.

 次にこの病気の治療でありますが,パーキンソン症状につきましてはパーキンソン病と同じくL-ドーパを始めとした抗パーキンソン病薬が有効です.しかしながら抗パーキンソン病薬は,いずれも大なり小なり幻覚や妄想などの精神症状を起こすことが知られており,それでもパーキンソン病では大量に使用しないと起こりませんが,この病気では少量でもまた病初期から精神症状を起こしやすいのが特徴です.そして幻覚や妄想を抑える向精神薬を使用するとパーキンソン症状が急激に悪化すると言われております.

この病気は,元々,幻覚や妄想が出て問題行動につながるなどして周囲が困ることが多いので,パーキンソン症状に対して薬が効くと分かっていながら,結局は最も効果が強くて副作用の出にくいL-ドーパを少量しか使用できず,このためアルツハイマー病などに比べてより早く寝たきりになってしまいます.

この病気の精神症状に対しては抑肝散という元々は赤ちゃんの夜泣きに用いられていた漢方薬やアルツハイマー病の治療薬であるドネペジルが,有用であるという報告もあります.また向精神薬の中ではクエチアピンが,パーキンソン症状を悪化させにくいと言うことで用いられることもあります.

 なおパーキンソン病は,今から10年前には中脳の黒質が選択的に障害される錐体外路系の疾患であると考えられていましたが,高齢者では10年以上経過すると前頭葉の障害により理解力,判断力,問題解決力などの低下が見られるようになり,皮質下認知症を合併してくるといわれるようになってきました.それでパーキンソン病は病初期こそレビー小体型認知症と区別出来ますが,進行すると区別が付きにくくなり,両者の異同が問題となる例もみられることがあります.

 

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