レビー小体型認知症について

2015.04.26 放送より

 本日は,昨年治療薬が保険適応となり,最近注目されているレビー小体型認知症についてお話いたします.

 このレビー小体とは,以前にパーキンソン病の話で説明したこともあるのですが,脳幹の中脳にある黒質の神経細胞内にあってパーキンソン病の際に認められる細胞内封入体のことであり,中にはα—シニクレインという蛋白がたまっております.どうして溜まっているのかは今をもってまだ不明なのですが,これがあればパーキンソン病であると考えられてきました.

 そのレビー小体が,現在は横浜市立大学名誉教授であられる小阪憲司先生によって1967年に認知障害,パーキンソン症状を示し,腸閉塞で亡くなった65歳女性の大脳皮質と脳幹にたくさん見られたという報告がなされました.その後,先生はドイツ人の認知症の症例でもレビー小体が認められることを発見され,1980年には20剖検例をもとにレビー小体病という名称を提唱されております.

 そしてその後の研究の成果により,1995年にはイギリスで第1回国際ワークショップが開催され,レビー小体型認知症(DLB)として国際的にも命名されました.このDLBは現在では,アルツハイマー型認知症,脳血管性認知症と並んで3大認知症の1つとされ,認知症の約20%を占めると言われております.そしてその発症年齢は,60-80歳代に多く,男性にやや多く,ほとんどが孤発性で家族性の発症はまれとされております.

 さてその症状でありますが,まずは認知症の定義である正常な社会活動に支障をきたすような認知機能の低下(物忘れ,見当識障害,理解力や判断力の低下など)があり,その認知機能が注意や覚醒レベルによって顕著に変動して動揺するという特徴が有ります.

 そしてまた例えば「県外にいるはずの孫が目の前にいる」とか「きちんと戸締まりできているはずなのに,カーテンの横に誰か男の人が立っている」といった具体的な幻視が繰り返し見られ,それによってしばしば被害妄想などが起こるという特徴が有ります.

 そしてさらに脳血管障害や薬剤などのほかに原因の無いパーキンソン症状(手足が安静時に振るえる,四肢がこわばり動作が小さく遅くなる,歩行障害,構音・嚥下障害などが見られるなど)が見られることも中核症状です.

 そしてこのパーキンソン症状はパーキンソン病の場合と同様にL-ドーパなど抗パーキンソン病薬が有効なのですが,その薬剤による精神症状が出やすいのも特徴の1つだと思われます.この病気の認知症状をアルツハイマー型認知症と比べてみますと,記憶障害がより目立ちにくく,その代わり幻視や妄想などによりBPSDが出やすく,またその日の調子や気分によって認知症状が大きく変動しやすいといった違いがあるかと思われます.

 それから,REM睡眠行動異常症(通常夢を見ている時には筋肉は緩んでいて身体が動かないはずなのに筋肉の緊張が保たれている結果,夢の通りに身体が動いてしまう),繰り返す転倒や失神,一過性で原因不明の意識障害,高度の自律神経障害(起立性低血圧,排尿障害,高度の便秘など),幻視以外の幻覚や系統化された妄想,うつ症状などが合併することもあり,これらがあればよりDLBの診断に参考となります.

 また検査所見で参考になるものとしては,脳CT/MRIでは内側側頭葉が比較的保たれていること,脳血流SPECT/PETで後頭葉に目立つ取り込み低下があること,DATscanにて大脳基底核におけるドパミントランスポーターの取り込み低下がみられること,MIBG心筋シンチグラフィで取り込みの低下が認められること,などがあります.

 それから治療でありますが,昨年秋にこれまでアルツハイマー型認知症の薬であったドネペジルがこの病気に対しても保険適応薬として承認されました.このドネペジルという薬は,中枢性抗コリンエステラーゼ阻害薬という範疇の薬剤であり,脳内のアセチルコリンを増やす働きがあります.アセチルコリンは,興奮性の神経伝達物質であり,アルツハイマー型認知症でも減っておりますが,レビー小体型認知症でも後頭葉を中心により減少していることが分かっており,幻視などの症状に関係しているとも言われております.

 そしてこの薬を実際に使用してみて著効することもあるようです.このほか,この病気の場合,パーキンソン症状によるADLの低下や自律神経障害による様々な症状に対しても対症療法を行う必要があります.中でもパーキンソン症状に対する薬剤の投与はパーキンソン病の時よりも精神症状の増悪をきたしやすく,またその増悪に対して向精神病薬を使用すると過敏性のためパーキンソン症状が極めて悪化しやすいなどいろいろと困難な問題があります.

 この病気は,約50万人の患者がいると推定されており,約15-20万人のパーキンソン病よりも多いと考えられておりますが,パーキンソン病でも進行に伴い認知症を併発してくることからどちらなのか区別がつきにくいことが多々あり,果たして同一疾患であるのか将来の課題であるかと思います.また記憶障害発症の約9年前から便秘が,約5年前からうつ症状が,約4,5年前からレム睡眠行動異常症が発現していたとの報告もあり,将来,進行を少しでも食い止めることが出来る薬が発見されれば,パーキンソン病ともども早期発見(あるいは発症前診断)がより重要になってくるものと思われます.

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