パーキンソンの最近の話題 診断と治療について(その2)

2018.01.28 放送より

 前回はパーキンソン病の症状についてお話ししました.パーキンソン病は振るえながら麻痺して動けなくなるという運動症状に長年注目されてきていましたが,最近では,便秘や立ちくらみなどの自律神経症状,うつや認知機能低下などの精神症状,さらに体重減少や易疲労性といったその他の症状もみられ,全身性の疾患であるというお話でした.さて本日は,パーキンソン病の診断と治療について最新の話題を含めてお話したいと思います.実はパーキンソン病には日本神経学会が提唱している診療指針があり,現在の最新バージョンは2011年のものです.これを基にして最近の進歩を取り入れて新しいバージョンの案が2017年の後半に出来上がってきましたのでその案の部分も含めてお話しいたします.

 まずは診断ですが,これまで,1.まずパーキンソン症状(振戦,筋強剛,無動のうち少なくとも2つ)があること,2.中年期以降に徐々に発症すること,3.発症時には症状に左右差を認め進行すると全身におよぶこと,4.薬剤性のものや脳血管性のものなどほかに原因がないこと,5.L-ドーパの効果があること,などにより臨床診断しておりました.しかしこのうちL-ドーパに対する反応性は,パーキンソン病関連疾患といわれる多系統萎縮症や進行性核上性麻痺でも発病当初の病変がパーキンソン病と同じく中脳の黒質に限局しておればパーキンソン病と同じような病態となり,L-ドーパは有効ということになります.事実,多系統萎縮症の約1/3においては発病当初はL-ドーパがよく効きパーキンソン病と診断されてしまうことがあります.しかし多系統萎縮症では,パーキンソン病と違ってドパミンの受け取り先である線条体の神経細胞もまた脱落してゆくため数年の内にL-ドーパは効かなくなってしまいます.このような例が蓄積され,パーキンソンの診断には相対的除外基準として,3年以内にしばしば転倒するようになって5年以内に車椅子状態になること,5年以内に重度の自律神経症状,構音・嚥下障害がみられること,5年以上たっても運動症状が進行しないこと,5年以内に不安やうつなどの精神症状,自律神経症状,嗅覚障害や睡眠障害などを認めないことなどの条件が加わってきております.また従来,神経内科医の詳細な診察に頼っていた診断を誰でもが理解しやすくするため画像診断も用いられるようになりました.頭部MRIで目立った病変がないのが前提ですが,加えてDATスキャンといいて黒質からドパミンを線条体に投射するための神経終末に存在するドパミントランスポーターに親和性のある薬剤を注射し,その取り込みが悪いと黒質のドパミン産生神経細胞が脱落していると証明されます.これによりパーキンソン病とその関連疾患を本態性振戦,薬剤性あるいは脳血管性パーキンソン症候群などから区別することが出来ます.またパーキンソン病と他のパーキンソン病関連疾患につきましては,MIBG心筋シンチという方法で,心臓の交感神経の末梢枝の変性の有無を調べることにより鑑別することが出来ます.

 それでは次に治療ですが,これまでは治療開始は日常生活に支障をきたすようになってからでよいとされていましたが,今回の改定からは患者さんの希望があれば開始してよいということになりそうです.これは現時点では病気の進行を阻止できるほどの薬はまだ有りませんが,将来に向けての伏線のように思います.また治療を開始する際の薬剤ですが,現在は大まかに70歳以下で認知症状もなく特別な事情もない方の場合は,ドパミンアゴニストで開始することが推奨されていましたが,軽症の方は新たにMAO-B阻害薬で開始してもよいようになりました.またL-ドーパにも見直しが行われ,そのコスト面や副作用面などから若年者でもより積極的に使用するようになってゆくかもしれません.またその後の治療につきましては,持続性ドパミン刺激(CDS)という概念に基づき,生理的なドパミン刺激により副作用を軽減して症状を安定させるとともに,患者さんにとっても服用回数を減らすなどしてより優しい治療を行う方向に向かってきております.それからさらに前回の治療指針発表からのこの約6年の間にロチゴチン,アポモルフィン,ゾニサミド,イストラデフィリン,DuoDOPAと数多くの薬剤が新しく発売され,進行期になってもこれらを組み合わせることによって副作用を抑えながら何とかADLを維持できるようにテーラーメイド的な治療が出来るようになってきております.このうち2016年の後半に発売されたDuoDOPAというL-ドーパを胃瘻と持続注入ポンプを用いて腸内に微量ずつ持続的に直接注入する今一番新しい治療法についても評価されております.この治療法は現時点ではCDSを最も実現しているものと思われますが,侵襲的であるため進行期に限られ,誰にでも適応するものではありません.

 現在もiPS細胞をはじめ治験が次々と進行しており,それにより成果のあった薬剤が今後続々と発売される予定がありますので,そのうちよりよい形でCDSを実現できるような薬剤や進行の抑制や緩和が可能な薬剤の開発がきっとなされると思いますので期待してよいと思われます.

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