多系統萎縮症について

2006.09.10 放送より

 以前にいわゆる立ちくらみである起立性低血圧についてお話しいたしましたので、今日はそれを引き起こす代表的疾患であります多系統萎縮症についてお話しいたします。

 この病気は神経細胞が原因不明に徐々に脱落して発症し、進行してゆくといういわゆる神経変性疾患に属し、その脱落する神経細胞が、脊髄小脳変性症などでみられる小脳系、パーキンソン病などでみられる錐体外路系、そして起立性低血圧や膀胱直腸障害などを起こす自律神経系など多岐にわたるために名付けられました。
従いましてどの系から発症するかによって初発症状や主症状が異なりますので、発症の仕方やどの症状が強いかなどによってさらに3つに大別されますが、かなり進行しますとみなほぼ同様の症状を呈しますので3つ合わせて多系統萎縮症と呼ばれるようになっております。

 それでは3つのうちで1番頻度の高いオリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)からお話しいたします。この疾患は、かつては脊髄小脳変性症の中に入れられておりました。脊髄小脳変性症自体もいろいろな疾患の寄せ集めであり、このうちの約70%は弧発性(遺伝歴や家族歴がはっきりしない)で残り30%は遺伝性があるといわれております。そしてそのいずれもに小脳だけが障害される型と小脳以外に錐体外路や自律神経も障害される型があります。
そして遺伝子診断や病理所見の解析などにより少し前から弧発性のオリーブ橋小脳萎縮症は多系統萎縮症に分類されることになりました。さてそれではその特徴についてお話しいたしますと、まず初発症状としては小脳性運動失調が上げられます。これは中年期以降に徐々に発症して次第に呂律が回りにくく歩行時にふらつくようになります。そしてさらには手先も不器用になり書字、食事、着替えなどもしにくくなります。

 また同時に自律神経障害として立ちくらみ(起立性低血圧)や排尿障害や頑固な便秘といった膀胱直腸障害もみられるようになってきます。さらには少し目立ちにくいのですが、錐体外路障害として筋強剛を主症状とするパーキンソン症状も現れてきます。この病気の診断には、今までお話ししましたような症状に加えて検査所見では頭部MRIにて小脳や脳幹の萎縮が認められますと大変参考になります。また遺伝子検査も行えるようになっています。

 続きまして経過ですが、この疾患では薬が効きづらいためリハビリテーションを中心とした治療を行うことになりますが、立ちくらみなどにより起立・歩行訓練が思うように出来ないこともあり、5~10年で寝たきりになってしまうようです。またその頃には嚥下困難も強くなり、嚥下性肺炎や脱水あるいは栄養失調をきたしやすくなり、全身衰弱の要因になります。また自律神経障害のため褥創も出来やすいことが問題になります。さらには以前の放送で取り上げました睡眠時無呼吸症候群も自律神経障害とパーキンソン症状の両面から起こしやすくこれもまた予後に重大な影響を与えます。

 次に3つの系統のうち錐体外路障害から始まる線状体黒質変性症(SND)についてお話しいたします。この疾患は、パーキンソン病で知られている黒質の神経細胞の障害に加えてドパミンを黒質神経細胞より受け取る側の線条体の神経細胞も一緒に障害されます。初発症状は、パーキンソン症状の1つである筋強剛のことが多く足が動きにくく歩行障害のことをきたします。

 パーキンソン病で多い(60-70%)振戦は少なく、またパーキンソン病では左右差が多いことに対してこの疾患では左右差が少ないという特徴があります。この疾患も中年期以降に徐々に発症し、オリーブ橋小脳萎縮症と同様に自律神経も障害され、起立性低血圧や膀胱直腸障害が強くみられるようになります。また小脳失調も遅れてみられ、最終的には3つの障害がそろいます。
なおこの疾患では、抗パーキンソン病薬が通常効きにくいといわれていますが、黒質優位に障害がある場合、最初のうちはパーキンソン病の薬が効くことがあります。このような例では、最近、MIBGシンチグラフィーといいまして本来は狭心症や心筋梗塞のための検査をするとパーキンソン病と差が出るということが分かってきまして鑑別診断に用いられるようになってきました。

 それから最後の自律神経が障害される型ですが、これは1960年に見つかった疾患で発見者の名前にちなんでShy-Drager症候群と呼ばれています。30-60歳代に発症し、失神をきたすほど著明な起立性低血圧や膀胱直腸障害、発汗障害(このため夏場などには熱がこもって感染を起こして無くとも38度台の熱が出ることもある)など自律神経障害が前面に出ます。そして発症後1年以上してからパーキンソン症状や小脳失調も加わり進行すればどの病型であったか分からなくなることもしばしばです。

 以上、多系統萎縮症のそれぞれの型についてお話ししてきましたが、いずれの病型でも根本的な治療法がなく、起立性低血圧、排尿困難、便秘、あるいは睡眠時無呼吸とそれぞれの症状に対して対症療法を行うことしか出来ず、なかなか厳しい難病であるといえます。

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