アルツハイマー病の診断と治療について

2013.03.17 放送より

 以前に認知症についていろいろとお話しいたしましたが,その時には2021年頃に日本で300万人を超えると思われていたのですが,昨年(2012年)の発表ではすでにもう300万人を超えているとの報告がなされ,予想を遙かに上回るペースで認知症の方が増えていると言うことが分かりました.そこで今回は認知症の中でも50-60%を占めると言われ,最も割合の高いアルツハイマー病についてはその診断と治療についてもう1度お話ししたいと思います.

 そもそもこれまでは認知症で受診される方には,物忘れを訴えられて認知症を心配して受診される場合とご本人には病識が無く幻覚や妄想,周囲に対する暴言や暴力,徘徊など問題となる行動(BPSD)が出てきてどうしようもなくなりご家族とともに受診される場合があったと思います.このうち物忘れをご自身が心配されて来院される場合は,実際にはアルツハイマー病でないことも多いかと思います.と言いますのはアルツハイマー病では病識が無くて物忘れを年のせいなどと言い訳されることが多くて自ら進んで受診されることは少なく,これに対して物忘れを心配して受診される方は,年齢相応であったり,認知症とまではいたっていない軽度認知障害(MCI,これは有意な物忘れは認めるものの全般的な認知機能は保たれており認知症にまではまだなっていない,いわば認知症の予備軍)やうつ状態の症状であったりすることが多いからです.

しかし一昨年よりは日本でも複数の薬が使用できるようになっており,出来るだけ早期発見・早期治療をした方が後々の経過がよいとの観点から,気楽に受診できるようにもの忘れ外来も各病院で設けられてきているようです.そして実は早期診断のために昨年(2012年),米国ではアルツハイマー病の診断基準が新しくなりました.この診断基準は,従来の認知症の症状(健忘症状,失語,視空間症状,遂行機能障害)を病歴や検査などで確認するとともに髄液検査やMRI,PETなどの画像検査も参考にして少しでも早期に診断して治療を始めようというものです.

 それではアルツハイマー病と診断された場合の経過を機能障害から評価したFASTという病期分類についてお話しいたします.これは1から7までに分類され,1は正常,2は年齢相応(非常に軽度の認知機能低下),3は境界状態(軽度に認知機能は低下し,熟練を要する仕事が出来なくなったり,自分1人では新しい場所に行くことは出来ない)で以前にお話ししたMMSEという認知症の簡便なスクリーニング検査では26-28/30点くらいとなります.

そして4では中等度の認知機能障害となり軽度のアルツハイマー病と診断されます.この場合,MMSEは18-24点程度となり,入浴や行き慣れた場所へは1人で行けますので日常生活は一見大丈夫なようにみえますが,実際には買い物の勘定や家計の管理がうまくできなかったりと社会生活には援助が必要となってきます.

そして5になりますと中等度のアルツハイマー病となり(MMSEは12-16点程度),やや高度な認知機能低下により介助なしでは洋服を選んで着ることも出来ず,入浴もなだめすかさないとしなくなったりします.こうなると自動車の運転も安全に出来なくなってきたり,家庭内で感情の障害から不適切な行動も目立つなどして医師による治療も必要になってきます.

それからさらに進んでステージ6になりますとやや高度なアルツハイマー病となり高度な認知機能低下(MMSEは5点)から,きちんと服を着られなくなったり,入浴に介助を要するようになり,さらにトイレも尿や便の失禁などが見られ,それらに対する反発から家庭内での療養が出来なくなり,施設入所が必要となったりします.

そしてさらに進んで7となれば高度なアルツハイマー病ということで,言語機能は著しく低下し,さらに歩行や着座能力の低下から寝たきり状態となって,末期には意識障害まで生じてしまいます.

 それから治療薬についてですが,1番始めに発売されたドネペジルという薬は,アルツハイマー病の脳内で減少しているアセチルコリン(ACh)の分解を阻害してこれを増やして症状を改善するAChエステラーゼ阻害剤に属します.

これと同様のものには,新たに発売されたガランタミンとリバスチグミンがあります.ガランタミンはAChの増加だけでなく他の神経伝達物質にも影響を与えると言われており,リバスチグミンはブチリルコリンエステラーゼという酵素も阻害して,よりAChの濃度を高めるほか剤型がパッチである点が異なっています.またもう1つのメマンチンは,グルタミン酸による過剰な興奮を抑えて神経細胞死を遅らすことが出来るのではないかと考えられており,残り3種のACh阻害剤と併用が可能であります.このように薬もいろいろと選んでその人にあった治療が出来るようになってきておりますので,認知症が心配であればぜひもの忘れ外来を受診していただきたいと思います.

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