心身症について

2005.09.21 放送より

 最近、心身症の方を何人か診療する機会がありましたので、私は神経内科医であり心療内科医ではありませんが、境界領域も診ているということで今日は心身症についてお話ししたいと思います。

 始めに心身症とは、日本心身医学会によりますと「身体疾患の中で、その発症や経過に心理・社会的因子(本人の性格、家庭や職場の環境や対人関係などによるストレス)が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態」と定義されております。この定義の中で特に注目していただきたいのは、最初の部分の“身体疾患の中で”という部分です。 すなわち心身症というのは、あくまで体の病気であり、心の病気である神経症とは違うことになっています。すなわち体の病気の発病と経過に心理・社会的因子が密接に関わっているものが、狭義の心身症です。しかし実際には神経症やうつ病による不安感や虚脱感などが昂じて機能的な障害をきたして身体症状を呈する(いわゆる病は気から状態)ようになり区別が出来ないことも多く、これらは広義の心身症に含められることもあります。

 これら心身症は、身体的な疾患で内科、整形外科、皮膚科などにいくらかかって体に対する治療を受けても良くなりません。ストレスによって自律神経系、内分泌系、免疫系など体のバランスをとって生活を一定に保つようなシステム(生体機能調節系)に変調をきたします。すなわち身体的な治療に加えて生活環境の改善や精神的なフォローなどストレスに対するケアも同時に行わないと心身症は良くならないというわけです。

 それでは心身症につきまして具体的に病気を挙げてゆきたいと思いますが、一口に心身症といいましても非常に多岐にわたる分野に非常に多くの疾患が含まれております。その中で有名なものとしては、まず消化器疾患では過敏性大腸症や胃・十二指腸潰瘍があげられます。過敏性大腸症は小腸や大腸などの運動異常のため腹部の不快感や膨満感、腹痛、便通異常(下痢と便秘の繰り返し)、放屁の増加などをきたします。腸管運動の機能的な異常であり、内視鏡や透視などの検査をしても明らかな形態的異常は見つかりません。心理的・社会的ストレスで増悪しまた逆に腹具合が悪くなるのではと意識すればするほどさらに精神的にもストレスがたまり悪循環をきたします。 そして時には不登校や出社困難などを引き起こしたり、癌などに対する恐怖感なども招くことがあります。同様のことは器質的な疾患である胃・十二指腸潰瘍にも言えます。

 次に呼吸器系の疾患では過換気症候群や気管支喘息などがあります。過換気症候群は、心身症と神経症の境界にあるともいうべきパニック障害の1部分症としてみられることもありますが、突然あるいは徐々に呼吸が苦しくなり、不安感が増大して呼吸が荒くなります。両手の指や口がしびれだし胸苦しさから死への恐怖などもみられさらに呼吸が速くなり、血液がアルカリ性となりCaイオンの低下からテタニー発作をきたしたり、血液中の二酸化炭素が洗い出されて低下して脳の血管が収縮して脳血流が低下して失神発作をきたすことがあります。

 しかし通常は過換気と無呼吸を繰り返して数10分でおさまり、死に至ることや後遺症を残すことはありません。発作は神経質な人に起こりやすく、持続的な不安・不満や心理的緊張、怒りなど、気分を興奮させる状況で生じやすく、また過労、寝不足、風邪による発熱などの際にも起こりやすいようです。それから循環器疾患では本態性高血圧、狭心症、心筋梗塞、不整脈など多くの疾患が含まれます。心臓死=生命の死というイメージが強いので、やはり心臓疾患は不安感を招きやすいようで心身症の割合が多いように思います。さらに内分泌・代謝疾患では糖尿病、甲状腺疾患などに加え拒食や過食といった食習慣の異常である摂食障害が含まれます。

 それから神経・筋疾患としては緊張型頭痛や片頭痛といった慢性頭痛、痙性斜頚や書痙といったジストニアという種類の不随意運動をきたす疾患、そして有名な自律神経失調症などが挙げられます。不随意運動や筋緊張は精神的緊張によって影響されますので、私は本態性振戦やパーキンソン病なども心身症として良いと思います。また分類不能ともいうべきものとして以前に取り上げたこともある慢性疲労症候群という疾患もあります。それから内科系以外のその他の疾患としては、皮膚科疾患としてアトピー性皮膚炎、慢性蕁麻疹、円形脱毛症、整形外科的疾患としては頚肩腕症候群や腰痛症、泌尿器疾患としては心因性頻尿、婦人科疾患としては更年期障害や月経異常などがあります。

 最後になりましたが、このほかに心身症に似ていますが精神科でないと良くならないものとして転換性障害という疾患があります。これは例えばとても嫌なことに対してもう2度と聞きたくないあまり耳が聞こえなくなったり(心因性難聴)、ショックのあまり声が出なくなったり(失声)するような病態で、こういう時にはやはり精神科でカウンセリングなどを中心に専門的治療を受けられる必要があります。

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