REM睡眠行動異常(RBD)について

2006.09.24 放送より

 これまで不眠、睡眠時無呼吸症候群、むずむず足症候群とさまざまな睡眠異常を呈する疾患についてお話ししてきましたが、今日は聞き慣れない病名ですが非常に興味深いREM睡眠行動異常(RBD)についてお話しいたします。これは夢を見ている時に大声で叫んだり手足をバタバタさせるなど一見夢遊病のような状態ですが、明らかに違うものであり、最近注目されている疾患であります。

 それではこの病気を理解するために既に何度かお話ししたことがありますが、睡眠について基本的なことからお話しいたします。そもそも睡眠にはこの疾患の名前の1部となっているREM睡眠と非REM睡眠があります。このうちREM睡眠は、REM=rapid eye movement(急速眼球運動)を伴った睡眠という意味であります。REM睡眠は睡眠の1番深いステージであるにも関わらず、脳波はむしろ入眠期ないし覚醒期の脳波に似て低振幅速波で、急速眼球運動や頚や顎などの筋緊張の低下などが観察されます。また交感神経の興奮状態にあり、心拍や呼吸は促迫し血圧も乱れが生じます。そしてこの睡眠のステージで夢を見ることが多いといわれております。

 このステージはいわば起きる前の準備段階とも考えられ、全睡眠時間の約20%を占めるといわれております。それに対して非REM睡眠はいわゆる身体や頭を休める本来の睡眠と考えられます。この睡眠は脳波によってさらにステージ1から4までの4段階に分けられます。すなわちステージ1は入眠時の状態で安静閉眼時にみられるα波が減り、θ波と呼ばれる少し遅い波が出現いたします。次のステージ2になりますと睡眠紡錘波と呼ばれる小さな波が認められるようになりますが、この段階で眠りに入ったと自覚されます。
さらにステージ3に入りますとδ波と呼ばれる最も遅い波が出現し始めます。この時期はまどろみ睡眠ともいわれ、中程度の睡眠時期であります。そしてステージ4はδ波が半分以上を占めるもっとも深い睡眠のステージであり、これらステージ3と4を徐波睡眠ともいいます。非REM睡眠はREM睡眠とは対照的に副交感神経が優位で心拍数や呼吸は覚醒時よりも遅くなり血圧も下がります。また眼球運動はゆっくりであり、筋緊張は覚醒時よりは低下していますが、REM睡眠の時ほどは低下しておりません。
これらの睡眠のステージは90分から120分周期で睡眠のステージが入れ替わっており、人は大体1晩に6-8時間位眠りますが、そのうちの前1/3は非REM睡眠が、後ろ1/3はREM睡眠がそれぞれ多く、特に覚醒する前はREM睡眠が多いといわれています。

 さてそれでは本日の主題であるREM睡眠行動異常(RBD)についてお話しいたします。この疾患は先ほどお話しいたしましたREM睡眠期にみられるものです。従いまして午前3時から5時頃に起こりやすいといわれています。REM睡眠は最も深いステージであるにもかかわらず脳波的には浅い睡眠時期のステージに似ており、また身体も交感神経が緊張状態にあり、覚醒時と同様に動かし易い状態にあります。

そしてこの時期に夢を見やすいということはよく知られているところです。しかしREM睡眠時と覚醒時の最も大きな違いは筋緊張にあります。すなわち覚醒時には筋肉は緊張しており自由に動くのに対して、REM睡眠期には筋緊張は睡眠時の中でも最も低下しており、通常は夢を見ている時にも手足は動かないのが普通です。ところがRBDの人では筋緊張が保たれていて「夢を見ているとおりに身体が動いてしまう」ということが起こります。

しかも夢見の内容が過激なことも多いようで、例えば「自分の首に蛸が巻き付いてきたので何とか手で振りほどこうとしてもがいた」とか「寝ていて頭の上に怖いものがぶら下がっていたので思わず起きあがってものを引きずりおろそうとした」などというものです。そして驚いて普段でも出ないような大声を上げたり、ベッドの上に立ち上がった拍子に転落したということもあるようです。

 この病気は睡眠時の脳波をとり、REM睡眠時に顎の筋肉の緊張が残っていれば診断されます。よく似た症状に睡眠時遊行症いわゆる夢遊病がありますが、これは子供に多くまた非REM睡眠でみられることから区別されます。また夜驚症は非REM睡眠のステージ3、4でみられ、叫んだりしますが夢の内容は思い出せません。それから睡眠麻痺いわゆる金縛りは、いきなりREM睡眠から眠り始めた時にみられるといわれております。
それからこの病気の原因は明らかではありませんが、アルコール、睡眠不足、ストレスが関係しているともいわれ、また高齢者の0。3%にもみられるといわれているほか、最近パーキンソン病の方に好発することが分かってきまして、逆にRBDがパーキンソン病の前駆症状になっている可能性も報告され、注目されております。またこれに対する治療ですが、クロナゼパムという抗てんかん薬が有効であるといわれています。

 以上本日は、REM睡眠とその異常で起こるREM睡眠行動異常についてお話しいたしましたが、お心当たりの方は、ぜひ神経内科を受診して下さいますようお願いいたします。

戻る

タグ:

ページの上部へ