しゃっくりと迷走神経について

2006.08.20 放送より

 私自身はそんなに悩んだことはないのですが、時々、まわりの人から相談を受けるしゃっくりについて、またしゃっくりと関係のある脳神経であり少し聞き慣れなくて面白い名前の迷走神経について今日はお話しいたします。

 そもそもしゃっくりとは、胸とお腹のしきりの役目をしていて呼吸をする際には収縮して息を吸い込めるよう働いている横隔膜が不随意にけいれんすることによって起こります。しゃっくりが起こる時、横隔膜は急速に収縮して胸壁を腹部側に引っ張り胸腔の容積が増えるため胸腔内圧が低下し、肺に急速に空気を吸い込むようになり、同時に声帯が素早く閉じて「ヒック」というような音を発します。この横隔膜のけいれんは、大半は明らかな原因が無くて起こるのですが、長期間続いたり頻繁に起こるものの中には原因があって起こるものがあります。

 そして原因により中枢性と末梢性に分けられております。このうち中枢性は、主として副交感神経系に属し胸腔や腹腔内の臓器を支配したり呼吸や循環の調節にも関係の深い迷走神経によってその情報が伝えられる延髄の呼吸中枢を刺激されて起こる場合で、他方の末梢性は、迷走神経および3-5番目の頸椎から出て横隔膜の運動を支配している脊髄神経である横隔神経あるいは横隔膜そのものが直接刺激されて起こる場合であります。そして中枢性のものは、延髄に起こった脳梗塞や脳腫瘍などの中枢神経系の病気やアルコール中毒や睡眠薬の服用が原因となることもあるそうです。

 また末梢性の方は、迷走神経や横隔神経を直接刺激するものとしては、脳底部の腫瘤、頚の疾患(頸椎症、頚部腫瘤、頚部リンパ節腫脹など)、胸の疾患(肺炎、胸膜炎、肺癌、気管支喘息など)などがあります。そして横隔膜を刺激するものとしては、肝疾患、腸閉塞や胃腸炎など消化管が拡張したり消化管の運動が亢進するような疾患、腹部の手術などがあります。また病気ではないのですが、暴飲暴食や急な食事などでも横隔膜は刺激を受けます。

 それからしゃっくりの治療法ですが、民間療法としては本当にたくさんの方法が知られております。主なものを上げますと、急に驚かせる、難しい質問をしてしゃっくりから注意をそらせる、逆にしゃっくりに意識を集中させて息を止めておく、ご飯を丸飲みにして息を止める、ゆっくりと息を整える、胸に手を当てる、腹に湿布を当てる、下を向いて冷たい水を飲む、どんぶりに張った水を反対側から飲むなどであります。
このうち息を止めたり整えるやり方は、横隔膜のけいれんを鎮めようと意識的に横隔膜の動きをコントロールしようとするのだと思います。また下を向いて冷水を飲むというのとどんぶりの向こう側から水を飲む(すなわち下を向いて水を飲むことになる)は口腔内の粘膜には迷走神経が分布していますので、これを冷水で麻痺させると思われ、案外と神経学的にみて理にかなっているものと思われます。こういった民間療法的なものは一過性のしゃっくりでよく試されるとお思いますが、48時間以上も続く難治性のものに対しては、薬物療法としてクロナゼパムやフェニトインといった抗けいれん薬やクロルプロマジンのような向精神薬が使用されることもあります。

 それでは次にしゃっくりに関係のある迷走神経についてお話しいたします。迷走神経は12対ある脳神経の10番目の脳神経で主に副交感神経系に属し、下部脳幹の延髄から出て頭蓋内だけでなく頚静脈孔から頭蓋を出て食道に沿って走り、胸腔に入り心臓や気管支などの胸腔内の臓器に枝を送ったり反回神経といって再び上行して口や喉の奥の多くの筋肉や声帯などに枝を送る神経を分枝した後、食道裂孔から腹腔へ入り食道、胃、十二指腸、横行結腸さらには肝臓や腎臓など腹腔内の臓器に神経を送っています
この神経の役割は、脳神経領域としては外耳の感覚、咽頭の1部や喉頭の感覚、発声や嚥下に関わる筋肉の運動などでありますが、この神経の驚くべき役割は、頭蓋外の方で脳から腹部まで長い距離を走り、自律神経のうち副交感神経として胸部では心拍数を落としたり気管支を収縮させ呼吸や循環の調節に関与しており、また腹部では胃や腸、肝臓や腎臓といった重要な臓器の内臓の感覚を伝え、胃腸の蠕動を起こさせる平滑筋の運動神経としても働いており、単に1つの脳神経というよりは生きてゆくのに最も重要な神経の1つであります。

 原因不明で数分で止まる一過性のものや過度の飲酒、過食、興奮などが引き金になって起こるものはともかくとして長引いたりしょっちゅう起こるしゃっくりの中には、神経の病気、胸や腹部の病気などが潜んでいる可能性があり、特に男性では約90%に何らかの器質的な疾患が発見されることがあるともいわれておりますので、しつこい場合はたかがしゃっくりと馬鹿にせずに一度内科ででも受診してみて下さい。

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