夜間頻尿にお答えして

2002.08.14 放送より

 お葉書ありがとうございます.夜になるとおしっこが近いという訴えだと思いますが、このようなことでお悩みの方は案外多いんじゃないかと思います.

 お葉書の内容を整理いたしますと56歳の男性で夜寝ている間に2~3回はトイレに起きられるようになったことと若い頃から甘いものやアルコール類がお好きで最近特にお太りになってこられたということであり、そこで何か病気にかかられているのではとご心配にされているのだと思います.この文面だけでは、肝心な点(例えば1回の尿量など)が少し足りませんのでいくつかの病気に絞るところまでしか推測できません.そこで今日はそれら思い当たる病気をいくつか簡単にご説明いたします.

 まず始めに考えなければならない病気は糖尿病と思います.糖尿病は、皆様ご存じのように尿の中にブドウ糖が混じる病気です.一般に腎臓などに問題がない場合、血糖が180mg/dlという値(閾値)を越えますと、ブドウ糖が尿中にあふれ出すようになります.この時、尿が非常に濃くなってしまうのでブドウ糖は水分を引き連れてゆきます.その結果、尿量が増えるというわけです(この現象を浸透利尿といいます).

当然、体から見れば無理矢理尿量が増えるため、脱水状態になるので喉が渇きます.それで多飲多尿となるわけです.この時、糖尿病と気付かず水やお茶の代わりに当分の入ったドリンク(例えばスポーツドリンク、コーヒー飲料、ジュースなど)を飲むとさらに血糖があがる悪循環をきたし、ペットボトル症候群といって思わぬ高血糖をきたしてしまう危険性もあります.

 日本人は、一般に夕食の時に一番のごちそうを食べることが多いので朝食や昼食の後はそれほどでなくとも、夕食後から高血糖をきたすことがあるものと思われます.このかたの場合、40歳を過ぎたあたりから肥満が目立ってきているとのことですから、食べ過ぎによりインスリンが相対的に不足し、2型の糖尿病を発症してきている可能性が考えられます.夜中にたくさん尿が出てよく喉が乾かないかどうかチェックしてみてください.

 次にうっ血性心不全も考えられなくはありません.心不全というのは心臓が弱っているという意味ですが、これには大きく分けて左心不全と右心不全があります.すなわち左心不全というのは左心房とか左心室といった心臓の左側の部分の機能が低下して、その結果、血圧が下がってショックをきたしたり、肺うっ血や肺水腫といって肺に血液がたまり咳や痰などとともに呼吸困難をきたします.

 一方、右心不全は右心房や右心室という右側の心臓の機能障害により浮腫(むくみ)をきたします.人間は通常、日中は立ったり座ったりと起きて生活するものですから、重力のため余分な水分は下へ下へと下がってゆきます.その結果、腸管に血液がたまり張ってしまい腹部膨満感や食欲低下を引き起こしたり、足に水分がたまり夕方が来ると足が大きくなり靴がきつくなったり、すねや足の甲を押すと引っ込みあとがつくようになります.

この場合、夜になって床にはいると、貯まっていた血液や水分が重力から解放されますので、それが腎臓に流れるようになり尿を作る元となり、夜間頻尿の原因となるわけです.浮腫と体重増加は区別が付きにくい時もありますが、急激な体重変動は浮腫の可能性がありますから注意をしてください.

 また前立腺肥大も一応可能性が考えられます.前立腺は男性の膀胱直下にあって、通常クルミ大(20g)程度の大きさで、後部尿道をとりまくようにある臓器です.前立腺の役割は、分泌される前立腺液により精子に栄養を与え、精子の活動を盛んにしますが、50歳を過ぎると肥大が始まり、70歳以上では10人中7人に肥大がみられるといわれております.病初期は、膀胱刺激期といい、尿回数が増加し、特に夜間に3回以上排尿が見られるようになります.

 また尿が間に合わない感じ(尿意切迫)がしたり、トイレに行ってもすぐに尿が出ずしかも尿線が細くなり尿をしている時間が長くなるなど軽度の排尿困難がみられたりいたします.排尿しようとしても排尿までに時間がかかり、尿線が細くないかどうか注意してみてください.このほか、私の専門分野である神経内科の分野でもパーキンソン病などのように膀胱容量が減少することにより、夜間の頻尿がみられる病気もあります.

 ご参考になりましたでしょうか.お聞きのようにさまざまな病気にかかっておられる可能性があるようですが、いずれにしましてもまずは早めに内科で診察を受けられどのような病気か鑑別してもらい、必要に応じてさらに専門医をご紹介していただいたらと思います.

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