過換気症候群について

2004.03.30 放送より

 お手紙拝見させていただきました.70歳の女性で基礎疾患として糖尿病があるそうですが、1年前の明け方4時頃に睡眠中突然手足をけいれんさせ苦しそうな呼吸をして意識がなくなる発作を起こされたそうです.この時は救急車で病院を受診されたとのことですが、朝には異常がなく、脳のCTやてんかんの検査などでは異常がなかったそうです.ところが最近同じような発作をまた起こされたそうで、低血糖発作などは否定され、そして今回も脳のCTなどでは異常がなく、インターネットでみて過換気症候群ではないかと心配されてお便りを出していただいたようです.それではこの方が過換気症候群であるかどうかは別にしてご依頼ですのでとりあえず過換気症候群についてご説明したいと思います.

 過換気症候群あるいは過呼吸症候群は、特に原因となる器質的な疾患がなく緊張、パニック、不安、興奮、恐怖などの心因的要因あるいは疲労や疼痛など身体的要因により突然発作的に呼吸が速くなって過換気状態が出現し、呼吸困難、動悸、手足のしびれやひきつけなどのテタニー症状、失神までいたる意識障害など多彩な症状を引き起こす心身症的色彩の濃い疾患です.20歳前後の若い女性に多く女性が男性の約2倍で、25歳以下の人が約70%以上を占めております.精神的な緊張から交感神経が過剰に興奮し、頻脈、血圧上昇、呼吸促迫などを引き起こし、動悸、胸内苦悶、呼吸困難感、顔面紅潮などをきたします.そしてそれが悪循環となり、さらに呼吸も速くなり止まらなくなるというわけです.通常、我々は1回450ml程度の空気を1分間に12~14回呼吸(=換気)しております.

 これによって動脈血中の酸素と二酸化炭素の濃度やpHは、1定に保たれております.この平衡状態が発作的な過換気により崩れますと、まず動脈中の二酸化炭素は洗い出されて二酸化炭素濃度(二酸化炭素分圧といいます)は低下し、逆に酸素濃度(酸素分圧)は正常より上昇いたします.この結果、血液中のpHは上昇し体はアルカリ側に傾き、呼吸性アルカローシスと呼ばれる状態になります.これに伴い血液中のカリウム(K)濃度やカルシウム(Ca)濃度は低下いたします.これらの変化の中でも二酸化炭素分圧の低下は脳血管の過剰な収縮をきたし(逆に換気不全などでは二酸化炭素分圧の上昇により脳血管が拡大して頭痛を誘発する)、意識レベルの低下を引き起こしひどくなると失神やけいれんをきたします.また血清Ca濃度の低下は四肢や口周囲のしびれ感を引き起こしたり、ひどくなるとテタニー発作と言いまして全身の筋硬直やこまかいけいれんを招くこともあります.このような発作は大体30分から1時間くらい続くようです.

 この病気の診断といたしましては、呼吸困難を訴えられ呼吸が促迫しているにもかかわらず発作時に血液中の酸素濃度が上昇していることが最も重要です.正式には動脈より血液を採取し、pH、二酸化炭素分圧、酸素分圧などを測定するのが最良ですが、簡便にはパルスオキシメータという器械を使って指先の酸素飽和度を測定すれば大体分かります.また血液中の電解質の測定で血清KやCaの低下を調べるのも重症度をみるのに有用です.本疾患は器質的な異常がないのが特徴ですから、本疾患の診断には、気管支喘息、各種拘束性肺疾患、虚血性心疾患、各種不整脈発作、脳血管障害、低血糖、てんかん、破傷風、低Ca血症をきたすさまざまな内分泌疾患、甲状腺機能亢進症など多彩な症状に合わせて各種疾患を鑑別する必要があります.このため心電図、脳波、肺機能検査、各種ホルモンの測定などを行う必要があります.また発作間欠期にもめまい、頭重感、胸痛、心悸亢進などの不定愁訴がみられることが多いようですのでそのような方は、普段より気をつけておく必要があります.

 次に治療ですが、発作時にはペーパーバッグ法といいまして紙袋を口にあてがって呼吸をしてもらう方法が有効です.こうすることにより紙袋の中に自分のはき出した息の中の二酸化炭素が蓄積し、それを再び吸うことにより血液中の二酸化炭素濃度は元に戻ってゆき症状が改善するというわけです.また精神的な興奮を取るために鎮静剤や抗不安薬などを使用すると有用なこともあります.この疾患は予後良好ですが、再発することも多く、そのため再発を予防するため発作のない時期にカウンセリングを受けたり、誘因となる不安を取り除けるよう環境などを整備することも有効なことがあります.

 ご質問の方は年齢が70歳と高いこと、発作が夜間の睡眠中に起こっており精神的あるいは肉体的なストレスがはっきりしないことなどより、過換気症候群を第一に疑うというよりは、てんかん、脳血管障害、虚血性心疾患、血糖の異常など(これらは重篤な状況に陥る可能性も高いことですし)をもう少し詳しく調べてみる必要があるように思います.

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