顔面神経麻痺について

2005.02.15 放送より

 今年に入って最近何人かの方から顔の筋肉が麻痺してしまう病気である顔面神経麻痺についてご相談を受けましたので,今日はその病気についてお話しいたします.

 それでは顔面神経麻痺の症状をお話しする前に,少しややこしいのですが,顔面神経が頭の中をどのように走り,どのような枝を出しているのか説明いたします.顔面神経は,脳幹の真ん中より少し上にある橋(きょう)という部分から左右1本ずつ出て小脳の前を通り錐体突起というところで内耳道に入りその中を通って茎乳突孔という孔から頭蓋骨の外へと出て行きます.顔面神経は耳介の下方やや前よりの耳下腺を通り抜け枝分かれして,顔の表情を作る顔面の諸筋(前頭筋,眼輪筋,口輪筋など)を運動神経として支配しています.

 この途中上から順番に涙を出す涙腺に神経を送り涙を分泌させたり,あぶみ骨筋という筋肉を支配して鼓膜がゆるまないようにしたり,舌の前2/3に鼓索神経という神経を送って味覚を感じたり唾液の分泌に関係したりしています.このように顔面神経は顔の表情を作るだけでなく,いろいろな働きをしているので合併している症状の有無によって顔面神経がどこら辺で障害されているのかおおよそ知ることが出来ます.

 それではその症状ですが,まず最も目立つのが顔の筋肉の麻痺です.麻痺側の額はしわを寄せることが出来なくなり,閉眼しようとしても麻痺側では白眼や睫毛が残ります.また麻痺側の鼻唇溝は浅くなり,口角は垂れ下がった上,健側に引っ張られます.このため顔の表情が変わるだけでなく上を見づらく,口笛を吹けなくなったり,食べた物が麻痺側からこぼれ落ちてしまいます.それから先ほど言いましたように内耳道には入ってすぐのところで障害されると涙が出にくくなったり,あぶみ骨筋が緩むとエコーがかかったようになって聴覚過敏を起こし,聞きづらくなります.さらに鼓索神経の障害では味覚障害や唾液の分泌障害が起こります.

 それでは次にどのような原因で顔面神経麻痺が起こるかお話しします.最も多い(60-70%)のは,実は原因不明の突発性の場合で,これをベル麻痺といいます.誘因は何も思い当たることがないことも多いのですが,寒冷の暴露,風邪,ストレス,疲労,妊娠などが引き金となっていることや高血圧,糖尿病,動脈硬化などが背景にあることもあり,顔面神経の栄養血管の低酸素状態などによる障害などが推測されています.ベル麻痺は急に起こって数週間から半年くらいかけてゆっくりと治ってゆき,自然治癒率も約70%と良好ですが,病初期に炎症を抑えるためステロイド治療をしたり,星状神経節ブロックによって顔面神経へ行く血流の増加を計ったりもします.

 出来る限り安静にしてビタミンB剤なども内服し,後遺症が残らないようにします.後遺症としては,顔面筋の麻痺が残ったり,顔面けいれんといって麻痺した筋肉がピクピクとひきつることがあります.また神経のミスディレクションによって回復期に口を閉じようとして目をつぶってしまったり,ワニの涙症候群といって食事をすると涙が出るという症状が出てくることもあります.

 その次に多いのがラムゼイハント症候群といって,帯状疱疹ウイルスが外耳道や耳介からその内部にある顔面神経に感染して起こるものです.これはこれまで述べた症状に加えて耳に強い痛みを伴う水疱をきたすほか,内耳を痛めて難聴や回転性のめまいをきたすこともあります.ヘルペスウイルスは神経好性のウイルスなので直接神経を破壊しますので,神経障害を残しやすく予後は不良で出来るだけ早くアシクロビルなどの抗ウイルス剤を使い,またステロイドや免疫グロブリンの投与を行います.

 それ以外の原因では,外傷性(側頭骨骨折,顔面打撲,切り傷)のもの,中耳炎からの炎症の波及,各種髄膜炎の波及,聴神経腫瘍や耳下腺腫瘍などの手術によるものなど局所性の原因によるもののほか,サルコイドーシスや神経ベーチェットなど全身性の炎症疾患の部分症状によるもの,ギラン・バレー症候群や重症筋無力症など神経筋疾患の部分症状によるものなどがあります.

 また以上述べてきましたものは,末梢性顔面神経麻痺といって顔面神経が脳幹の橋より外に出たレベルでの障害ですが,多発性硬化症や脳血管障害,脳腫瘍などでは中枢性顔面神経麻痺きたすことがあります.中枢性と末梢性の麻痺の鑑別には前頭筋の支配が中枢では両側性であることより中枢性麻痺では額のしわ寄せが可能であることや深部反射の亢進などを伴うことが多いことを鑑別に利用しています.顔面神経麻痺は,概して予後の良いことが多いのですが,中にはこのように治りにくいものもありますので,なるべく早く専門医を受診されるように心掛けて下さい.

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