パーキンソン病患者さんからの質問に対する回答

2013.07.07 放送より

 徳島県内のパーキンソン病患者さんの友の会とも言うべき自助グループ(患者さん同士の交流を通じ病気の勉強や療養の仕方の工夫などについて相互に情報交換をする)として「オリーブの会」という会があり,その会員の方よりパーキンソン病に関していくつか質問がありましたので,許可を得てこの場でご披露いたします.

 1.iPS細胞について,今後のゆくえは?

 iPS細胞は,山中教授のノーベル賞受賞も相まって新聞やTVでも大々的に報道され,日本中で大いに期待されるところです.しかし山中教授自らがお話になっているとおり,現実的にはその成果はまだ上がっておりません.将来のこととして,パーキンソン病に対する有用性としましては,まずは病気の原因に対してよりシンプルに迫れる可能性が考えられます.細胞レベルの実験とはなりますが,それを逆手にとって細胞死の起こるメカニズムを個々の患者さんで調べることが出きるかと思います.

 次に考えられるのは,予防薬の開発に対する貢献です.これもどのような薬が細胞死を抑えることが出来るか,広範囲かつ簡便にスクリーニングすることが出来ますので,発病予防や病気の進行を遅らせる薬の開発が進むことが期待されます.それから皆様がもっとも期待されているiPS細胞の脳内への移植ですが,これに関しましては,従来すでに治験が行われているドパミン産生細胞の線条体への移植であれば,確かに拒絶反応などの問題は解消されるかもしれませんが,現在のレベルでは薬の減量に役立つくらいであり,根本的な治療にはならないと思います.

2.非運動症状はそれぞれ違うのか?どのような症状があるのか?

 パーキンソン病は錐体外路系(運動神経のことを錐体路といい,それを補佐して動作をコントロールする系)の病気の代表とされ,従来は振るえながら動きにくくなっていく運動障害をきたす病気として,おもに運動症状が取り上げられていました.それに対して,非運動症状はこの10年で特に注目されてきました.すなわち非運動症状には大きく分けて,自律神経症状(便秘,排尿障害,起立性低血圧,発汗異常など),精神症状(抑うつ,幻覚・妄想,認知症など),感覚症状(オフ時の痛みやしびれ),その他(易疲労性,体重減少,夜間の叫びなど)などがあります.これらの中には嗅覚障害のようにパーキンソン病の運動症状発症前から発現しているものもあり,発症前症状として注目されています.

 3.薬の副作用が出たら変えるべきか?症状はどんなか?守らなければいけないことは?

 パーキンソン病の薬としては,運動症状をコントロールして症状を改善させるものと便秘や排尿障害などに対して対症療法として使われるものがあります.これらの薬の中で副作用が問題となるのは主に運動症状を改善させる薬であります.そしてその副作用には重大なものとそうでないものがあります.

 例えば幻覚や妄想でも「小さな虫が見える」などのあまり気にならないものから,「夜間に隣の人が庭木を盗りに来る」など無視できないものがあり,無視できないものでは当然薬を止めるか変える(あるいはその薬がどうしても必要であれば,副作用止めを併用してでも使用)ことになりますし,また些細なものであれば増悪に注意してそのまま続けることになります.要は緊急性と重篤性によって薬の継続は決まります.

  また副作用の症状としては,消化器症状(悪心,嘔吐,食欲不振,便秘や口渇の増悪など),運動症状(薬の効きすぎによるジスキネジアやジストニア),精神症状(幻覚や妄想など),その他(眠気,悪性症候群など)があります.このうち悪性症候群といいますのは,パーキンソン病の薬を急に1度にすべて止めると高熱とともに全身が硬直するというもので,必ず起こるというわけではありませんが,手術などに際して注意が必要であり,また薬は切れることのないよう少し余分をお持ちになるよう指導しております.

  そして守らなければならないことというより,是非とも心がけていただきたいことは,自分の飲んでいる薬が,どういう薬で何のために飲んでいるか,その薬の副作用にはどのようなものがあるかなどを知っておくことであり,その上で用法・用量を守って服用していただきたいと思います.

4.家族は患者に対してどう向き合ってゆけば良いのか?

 一概にどう向き合ってゆくかと言われましても患者さんの年齢,性別(主たる介護者は配偶者であることが多く,夫と妻ではどうしても負担が違う),職業の有無とその種類,家族構成など個々に違うので,総論的なことしかいえませんが,原則は患者さんとともにパーキンソン病という病気のことを充分に勉強することにより現在起こっている症状や将来的に起こりうる様々な症状を理解して,患者さんをサポートし一緒に乗り切っていくことだと思います.そしてそういった意味でも患者会の果たす役割は大きいですし,ヘルパーさんをはじめとしたコメディカルの方にも当然,この病気のことを理解していただきたいと思います.

 

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