多発神経障害について

2010.09.05 放送より

 この前は感覚とその障害についてお話しいたしましたが,時間の関係でその中でも最も多く見られる多発神経障害について詳しくは説明できなかったので,本日はそれについてお話しいたします.

 まずは多発神経障害(あるいは多発神経炎)の病態ですが,これは何らかの原因によって,末梢神経が左右対称性に同時に障害されております.この場合,末梢神経は感覚神経も運動神経も両方含まれますが,病因によって障害が感覚神経優位なもの,逆に運動神経が優位に障害されるものなどさまざまです.そしてその障害のされ方には,脱髄性と軸索変性という2つの型があります.このうち脱髄というのは,電線でたとえますと電線の外側を覆っているビニールの皮膜のような部分である髄鞘が,何らかの原因ではげ落ちてしまうことをいいます.

 脱髄が起こりますと神経刺激の伝わる速度(=神経伝導速度)が低下して機能が障害され,感覚が鈍くなったり,麻痺が起こるなどいたします.一方,軸索変性というのは電線にあたる神経線維が断線してしまう状態をいい,伝わる刺激の量が減りますのでやはり感覚が鈍くなったり,運動麻痺が起こります.末梢神経は再生すると一般に言われておりますが,軸索変性の方が一般により治りにくいようです.またこれらの病変は,急性に起こることも慢性に起こることもあります.

 そして多発神経障害の症状の特徴は,感覚障害でいえば,手袋靴下型の感覚障害,運動障害でいえば四肢の遠位筋優位の麻痺や筋萎縮が起こることであります.このような障害のパターンをとる理由は,次のように言われております.すなわち神経線維の障害はその走行中どこで起こったとしても神経刺激はそこで伝わらなくなってしまうため,例えば感覚障害であれば,指先からの刺激は指,手のひら,手首,腕,肩と脊髄にいたるまでいろいろな箇所で途絶える可能性があります.

 これに対して腕からの刺激は,腕および肩で障害された場合にのみ途絶えることになります.つまり脊髄からの距離が離れている部位ほど刺激が伝わるうちにどこかで障害される可能性が増すわけであり,従いまして上肢であれば腕よりも手の方が,さらに上肢よりも下肢の方が障害されることとなり,ひいては手袋靴下型の感覚障害のパターンとなり,さらに特に足先が最も程度が重いということになります.

 次に多発神経障害をきたす疾患や原因について具体的にお話しいたします.まず最も多いのが糖尿病によるものです.神経障害は糖尿病の3大合併症の1つとして知られており,糖尿病性ニューロパチーと呼ばれ,糖尿病患者の20-30%に見られるといわれております.微細な血管障害による神経障害のほか,高血糖の結果,ソルビトールという糖分がたまることにより神経組織を傷害するために起こるといわれております.

 その症状は,四肢末端の振動覚低下や深部反射の低下から始まり,じんじん感,しびれ感など主に感覚障害がみられます.よく足の裏に薄い紙がへばりついた感じがするとか足底部が焼け付くような感じがするなどと訴えられるようです.そして糖尿病性網膜症や糖尿病性腎症などほかの合併症と違って,発症後数年以内と早期から起こってまいりますが,時間が経過しても運動障害がひどくないためか,さほど気にはならないようです.しかし進行して感覚低下のため痛覚が鈍くなり,さらに自律神経障害なども強くなってくると足先などにけがをしても気づきにくく,また血行障害から傷も治りにくくなったり,傷が化膿しやすくなったりとかで足の指を失うことになったりしますので要注意です.糖尿病性神経障害の治療は,やはり血糖のコントロールが1番です.

 それから同様に慢性的に神経障害をきたすものにアルコールの過剰摂取やビタミン不足などがあります.特にビタミンB群は末梢神経障害を起こしやすく,中でもB1不足は糖代謝やエネルギー代謝の障害により脚気ニューロパチーとして知られております.またそのほかにもビタミンB6やB12でも多発神経障害が起こります.また中毒として知られているのは,薬剤ではフェニトインなどの抗けいれん薬,ビンクリスチンなどの抗がん剤,INHやエタンブトールなど抗結核薬などがあります.このほか重金属やn-ヘキサンなどの化学物質による中毒もあります.それから関節リウマチや全身性エリテマトーデスなど膠原病に合併した多発神経障害も広く知られておりますし,悪性腫瘍に随伴したものでは,腫瘍の見つかる2年前から先行して見られることもあります.さらに自己免疫的なものでは急性型として有名なギランバレー症候群やその慢性型として慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)などがあります.

 このほか感染症ではジフテリアやらいなどが知られていますし,稀なものでは遺伝性のものもあり,多発神経障害には本当に数多くの基礎疾患や原因を鑑別する必要があります.頻度としても感覚障害の中で最も高いものでありますので,手足のしびれる方は,基礎疾患に思いも寄らぬ病気が潜んでいないか,ぜひ1度神経内科で専門的な診察を受けられるようお勧めいたします.

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